Baud

Baud

Baud

英語表記: Baud

概要

Baud(ボー)は、通信システムにおいて、1秒間に送受信される信号の状態変化(シンボル)の回数を示す単位です。私たちが通信技術を学ぶ上で、この単位は「情報の単位(ビット, バイト)」を物理的な「通信単位」として伝送する際の速度を測る基準として機能します。データ転送量を表す「bps(bits per second)」と混同されがちですが、Baudはあくまで物理的な信号の変調速度を示すものであり、実際に運ばれる情報量(ビット)とは区別される点が最大の特徴です。

詳細解説

Baudは、階層構造における「通信速度と帯域」を理解する際に、物理的な信号の側面からアプローチするための重要な概念です。特に、初期のモデム通信など、限られた帯域幅の中でいかに効率よく情報を送るかを追求する過程で、その役割が明確になりました。

目的と動作原理

Baudの目的は、通信路(回線)が持つ物理的な限界の中で、情報伝達のために信号が1秒間に何回、状態を切り替えられるかを定量化することにあります。この信号の変化、すなわち「シンボル」は、情報を運ぶための最小の物理的な器だと考えてください。Baudレートが1200であれば、その通信路では1秒間に1200回の信号変化が発生していることを意味します。

初期の通信技術では、1回の信号変化(1シンボル)で表現できる情報が「0」か「1」の1ビットに限られていました。この時代は、Baudレートとbpsが一致していたため、Baudという単位が「通信単位」と「情報の単位」の双方を兼ねていたと言えます。これは非常に分かりやすい関係性でしたね。

多値変調とBaudの役割

しかし、通信技術が進歩し、高速化が求められるようになると、通信事業者は「多値変調(マルチレベル変調)」という技術を開発しました。これは、信号の振幅や位相などを複雑に組み合わせることにより、1回の信号変化(1シンボル)で、2ビット(4値)、4ビット(16値)といった、より多くの情報を一度に運べるようにする技術です。

この技術革新により、Baudとbpsの関係は以下のように分離しました。

  1. Baud(通信単位): 通信路の物理的な限界によって決まる、1秒あたりの信号変化回数。
  2. bps(情報の単位): Baudレートに、1シンボルあたりに含めるビット数を掛けた、実際の情報伝送量。

例えば、Baudレートが2400であっても、1シンボルで4ビットを送れる変調方式を採用すれば、bpsは $2400 \times 4 = 9600 \text{ bps}$ となります。このように、Baudはあくまで通信の土台となる「通信単位」の速度を示し、bpsは私たちが扱う「情報の単位(ビット)」の転送速度を示す、という区別が非常に重要です。この違いを理解することで、「通信速度と帯域」の文脈における物理的な制約と情報処理の効率化の両側面を捉えることができるようになります。

具体例・活用シーン

Baudが「情報の単位(ビット)」とは異なる「通信単位」であることを理解するために、郵便配達の比喩を用いてみましょう。

郵便配達の比喩(トラックと荷物)

Baudを郵便局のトラックが1秒間に通過する回数、bpsを実際に運ばれる手紙の量(ビット)に例えることができます。

  • Baud(トラックの通過回数): これは通信路の物理的な能力(道路の交通量制限)によって決まります。例えば、1秒間に100台のトラックしか通過できないとします(100 Baud)。
  • 初期の通信(1シンボル=1ビット): トラック1台が運べる手紙(ビット)は1通でした。この場合、100台のトラックが通過すれば、運ばれる手紙は100通です(100 bps)。
  • 多値変調の導入(1シンボル>1ビット): 郵便局が工夫し、トラックの積載方法を改善しました。トラックの通過回数(Baud)は100回のままでも、1台のトラックに手紙を10通積めるようにしたとします。

この工夫により、トラックの通過速度(Baudレート)は変わらず100回のままで、実際に運ばれた手紙の総量(bps)は $100 \times 10 = 1000 \text{ bps}$ となります。

活用シーン:
Baudは現代の一般的なインターネット接続速度を示す際にはほとんど使われませんが、以下のような特定の分野では今でもその概念が重要です。

  • シリアル通信(RS-232Cなど): 産業機器や組み込みシステムでは、ボーレート(Baud Rate)を直接設定して通信速度を決定します。この場合、変調が単純なためBaudとbpsが一致することが多いです。
  • 通信技術の歴史学習: ITパスポートや基本情報技術者試験では、通信技術の進化の過程を問うため、初期のモデム(例:2400 Baud)の仕組みを理解する上でBaudの概念が不可欠です。

この比喩と実例を通じて、Baudが「情報の単位」ではなく、情報を載せて運ぶ「通信単位」の物理的な速度であることを、ぜひ実感していただけたら嬉しいです。

資格試験向けチェックポイント

IT資格試験において、Baudは「通信速度と帯域」の文脈における基礎知識、特にbpsとの違いを問う形で頻出します。受験者の皆様は、以下のポイントを確実に押さえてください。

  • 定義の区別(最重要):
    • Baudは「信号の変化回数(シンボルレート)」であり、通信路の物理的な単位です。
    • bpsは「情報量(ビット)」であり、実際に伝送されたデータ量です。
    • 対策: 「情報の単位(ビット)」がどう運ばれるかを問う問題であればbps、「通信単位」の物理的な速度を問う問題であればBaud、と明確に区別できるようにしましょう。
  • 多値変調と計算式:
    • 1シンボルで送れるビット数を $N$ とし、Baudレートを $B$ とした場合、bpsは $B \times N$ で計算されます。この計算は、特に基本情報技術者試験や応用情報技術者試験で頻繁に出題されるパターンです。
    • 例:「4値変調(1シンボルで2ビット)を用い、Baudレートが4800の場合のbpsは?」→ $4800 \times 2 = 9600 \text{ bps}$ です。
  • 歴史的背景の理解:
    • 初期の低速通信ではBaudとbpsが等しかったが、多値変調技術の発展によりbpsの方がBaudより大きくなるのが一般的である、という技術の進化の順序を理解しているかが問われます。これは、技術動向を理解する上で非常に大切な視点だと私は考えています。
  • 文脈の確認:
    • 問題文が「変調速度」を尋ねているのか、「実効速度」を尋ねているのか、主語を丁寧に確認することが合格への鍵となります。

関連用語

Baudは、「情報の単位(ビット, バイト, KiB, MiB)」の伝送効率を測る「通信速度と帯域」の文脈で、以下の用語と密接に関連しています。これらの用語をセットで理解することが、通信の全体像を把握する上で非常に重要です。

  • bps (bits per second): 1秒間に転送されるビット数。Baudが物理的な速度であるのに対し、bpsは情報量そのものの速度を示します。
  • シンボルレート (Symbol Rate): Baudと同義です。信号の変化回数を指す、より技術的な表現です。
  • QAM (Quadrature Amplitude Modulation): 多値変調方式の一つで、Baudレートを上げずにbpsを向上させるために用いられる代表的な技術です。

関連用語の情報不足:

本記事はBaudに特化しているため、上記に挙げた関連用語、特にbpsや多値変調方式(QAMなど)の詳細な定義や動作原理については情報不足です。階層構造「情報の単位(ビット, バイト, KiB, MiB)→通信速度と帯域→通信単位」を完全に理解するためには、Baudの知識を土台として、bpsがどのように計算され、多値変調がどのように実現されるかについて、別途詳細な解説が必要となります。特に、受験対策としては、bpsの項目を参照して、Baudとの関係性を深掘りすることを強く推奨いたします。

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この記事を書いた人

両親の影響を受け、幼少期からロボットやエンジニアリングに親しみ、国公立大学で電気系の修士号を取得。現在はITエンジニアとして、開発から設計まで幅広く活躍している。

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