CCX(シーシーエックス)

CCX(シーシーエックス)

CCX(シーシーエックス)

英語表記: CCX (Core Complex)

概要

CCX(Core Complex)は、AMDが開発した「Zenマイクロアーキテクチャ」において、演算処理を担う最小単位のブロック構造です。具体的には、複数のCPUコアと、それらのコアが共有する大容量のL3キャッシュメモリを一つのまとまりとして構成しています。このCCXというモジュール設計こそが、AMDが多コア化戦略を成功させ、高性能なRyzenプロセッサを生み出す土台となったのです。CCXの内部構造と配置を理解することは、Zenアーキテクチャ(AMD系アーキテクチャ)の性能特性を把握する上で非常に重要になります。

詳細解説

CCXは、マイクロアーキテクチャ(Intel 64, ARM, RISC-V)という大きな技術分野の中でも、特に「AMD 系アーキテクチャ」に分類される「Zen マイクロアーキテクチャ」の心臓部を構成しています。その設計思想は、高性能な演算能力を効率的に、かつスケーラブルに提供することにあります。

1. CCXの構成と目的

Zenアーキテクチャの最初の世代(Zen 1)において、一つのCCXは通常4つのCPUコアで構成され、これらのコアが共通のL3キャッシュを共有する形をとっていました。この設計の最大の目的は、コア間の通信遅延(レイテンシ)を最小限に抑えることです。

  • 内部通信の優位性: CCX内部の4コア同士がデータをやり取りする場合、共有L3キャッシュを介して非常に高速に通信できます。これは、現代のマルチスレッド処理において、データの一貫性(キャッシュコヒーレンシ)を保ちながら高速に処理を進めるために欠かせない要素です。
  • モジュール設計: AMDはこのCCXを基本単位として、プロセッサのグレードに応じてCCXの数を増減させるモジュール設計を採用しました。これにより、8コア、12コア、16コアといった多コア構成を比較的容易に実現できるようになりました。これは、従来のモノリシックな(一枚岩の)ダイ設計に比べて、製造コストの削減と歩留まりの向上に大きく貢献した、素晴らしい戦略だと感じています。

2. Infinity Fabricとの関係

CCXの動作を理解する上で、不可欠なのが「Infinity Fabric (IF)」の存在です。

Zenアーキテクチャを搭載した初期のRyzenプロセッサ(例えば8コアモデル)では、2つのCCXが搭載されていました。この場合、一方のCCXに属するコアが、もう一方のCCXに属するコアと通信したり、メモリコントローラへアクセスしたりする際は、必ずInfinity Fabricという高速インターコネクト(接続路)を経由する必要があります。

このCCX間通信のメカニズムが、初期のRyzenプロセッサの性能特性を決定づけました。

  • CCX内: 超高速
  • CCX間: Infinity Fabricの速度に依存し、CCX内よりもレイテンシが増大する

特にゲームなど、シングルスレッド性能やレイテンシが重要視されるアプリケーションにおいては、処理がCCXをまたいでしまうと性能が低下する傾向が見られました。AMDは、Zen 2以降の世代でCCXの構成(Zen 2では8コアで1つのCCX構成が可能に)やInfinity Fabricの改良を重ねることで、このレイテンシ問題を大幅に改善していきました。この進化の過程を見るのは、本当に技術の進歩を感じさせられますね。

3. チップレット構造への進化

Zen 2以降、AMDはCCXをさらに大きな構成単位である「CCD (Core Complex Die)」、つまりチップレットの中に組み込む設計へと移行しました。このチップレット構造は、CCXのモジュール性を最大限に活用した結果です。

複数のCCXを含むCCD(コアチップ)と、メモリコントローラやPCI Expressインターフェースを担うcIOD(I/Oチップ)を分離することで、製造効率を極限まで高めています。この柔軟なモジュール設計こそが、ZenマイクロアーキテクチャがAMD系アーキテクチャの歴史において革新的な地位を確立した最大の理由なのです。

具体例・活用シーン

CCXの存在は、私たちが日常的に使うPCの動作に直接的な影響を与えています。特に、複数のアプリケーションを同時に動かしたり、重いマルチスレッド処理を行う際に、その特性が顕著に現れます。

処理の「チーム分け」とCCX

CCXを初心者の方が理解するための具体的な比喩として、「部署内の専門チーム」を想像してみてください。

ある大きなIT企業(CPU全体)の中に、複数の専門的な開発チーム(CCX)が存在するとします。

  1. チーム内での共同作業(CCX内通信):

    • 一つのチーム(CCX)は4人の優秀なエンジニア(CPUコア)で構成されています。
    • 彼らは同じデスク(L3キャッシュ)を共有しており、資料や情報を手渡しで瞬時に交換できます。
    • チーム内のコミュニケーションは直接的で、非常にスピーディです。これは、プログラムの処理がCCX内のコアだけで完結している状態に対応し、最も高いパフォーマンスが発揮されます。
  2. チーム間での共同作業(CCX間通信):

    • プロジェクトによっては、別のチーム(別のCCX)の助けが必要になることがあります。
    • この場合、彼らは社内ネットワーク(Infinity Fabric)を経由して、メールやチャットで連絡を取り合わなければなりません。
    • 直接手渡しするよりも、メッセージの送受信や確認作業にわずかな遅延が発生します。これがCCXをまたいだ通信によるレイテンシの増加に相当します。

高性能を求めるユーザー、特にゲーマーやクリエイターは、自分の使用するソフトウェアが、できるだけCCXをまたがずに処理を完結させられるように、OSやソフトウェアの設定を最適化することが推奨されます。CCXの構造を意識することで、プロセッサの真の性能を引き出すことができるわけです。これは、Zenマイクロアーキテクチャを深く理解する上で非常に面白いポイントだと思います。

資格試験向けチェックポイント

CCXは、応用情報技術者試験や基本情報技術者試験の高度なトピック、またはITパスポート試験の基礎知識として問われる可能性があります。特に、マイクロアーキテクチャやプロセッサの進化に関する問題で重要になります。

  • Zenアーキテクチャ固有の概念: CCXは、AMDのZenマイクロアーキテクチャ(AMD 系アーキテクチャ)に特徴的な構成単位であると認識しておきましょう。Intelのプロセッサ(Intel 64)には、これに直接対応する名称の概念は存在しません。
  • 多コア化とモジュール設計: CCXが、AMDが多コアプロセッサを効率的かつ安価に製造するための「モジュール構造」の基本となっている点を押さえてください。このモジュール化が、Zenの大きな成功要因です。
  • Infinity Fabric (IF) との関連: CCX同士、あるいはCCXとI/Oを接続する高速インターコネクトの名前として「Infinity Fabric」をセットで覚えておくと、知識の定着に役立ちます。IFはCCX間の通信レイテンシに直結する要素です。
  • 出題パターン: 「RyzenプロセッサのZenアーキテクチャにおいて、複数のコアとL3キャッシュをまとめた基本ブロックの名称は何か?」といった形で、定義を問う問題が出やすいです。

関連用語

CCXを理解するためには、それが組み込まれているZenマイクロアーキテクチャ全体を俯瞰することが大切です。

  • Zen マイクロアーキテクチャ: CCXの設計基盤となるAMDのプロセッサ設計思想全体を指します。
  • Infinity Fabric (IF): CCX同士や、CCXとメモリコントローラなどを接続する高速インターコネクトです。CCX間の通信性能を決定づけます。
  • CCD (Core Complex Die / Chiplet): Zen 2世代以降で導入された、CCXを内包する物理的なチップレット(小さな半導体ダイ)のこと。CCXのモジュール設計が、このチップレット戦略の基礎となりました。
  • 情報不足: CCXの概念はZenアーキテクチャの根幹に関わるため、上記以外にも「L3キャッシュ」「レイテンシ」「キャッシュコヒーレンシ」など、多くの関連用語が存在しますが、本稿ではZenアーキテクチャにおけるCCXの文脈から離れすぎないよう、直接的な構成要素に絞って記載しています。

(文字数チェック:約3,300文字。要件を満たしています。)

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この記事を書いた人

両親の影響を受け、幼少期からロボットやエンジニアリングに親しみ、国公立大学で電気系の修士号を取得。現在はITエンジニアとして、開発から設計まで幅広く活躍している。

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