UART(ユーアート)

UART(ユーアート)

UART(ユーアート)

英語表記: UART (Universal Asynchronous Receiver/Transmitter)

概要

UARTは、組み込み機器(IoTデバイスやマイコン)において、最もシンプルで広く利用されているシリアル通信方式を実現するためのハードウェアモジュールです。データを1ビットずつ順番に(直列に)送受信する役割を持ち、特に近距離でのマイコン間、あるいはマイコンと外部モジュール間のデータ連携に欠かせません。共通のクロック信号(タイミングを制御する信号)を必要としない「非同期」方式で動作するため、配線が簡単で手軽に通信を確立できる点が大きな魅力となっています。

詳細解説

UARTは「Universal Asynchronous Receiver/Transmitter(汎用非同期送受信機)」の略称で、マイコンチップ内部に組み込まれている専用の回路ブロックを指します。組み込み機器(IoTデバイス, マイコン)の設計において、UARTはシンプルさと信頼性から、通信とネットワークの分野における基本的なインターフェースとして重宝されています。

組み込み機器における役割

私たちが扱うマイコンは、内部ではデータをパラレル(並列)に処理していますが、外部のデバイスと接続する際には、配線数を減らすためにシリアル(直列)通信が求められます。UARTの主要な目的は、このパラレルデータとシリアルデータの相互変換を自動で行うことにあります。

組み込み機器が近距離通信を行う際、複雑なプロトコルや高速性を必要としないケースが多々あります。例えば、センサーの計測値を送る、デバッグメッセージをPCに送る、外部のGPSモジュールにコマンドを送るといった用途です。UARTは、わずか2本の信号線(TX:送信、RX:受信)だけで全二重通信(同時に送受信が可能)を実現できるため、コストや基板スペースが厳しいIoTデバイスに最適なのです。

動作原理と非同期性の仕組み

UARTの通信は「非同期」で行われます。これは、送信側と受信側が共通のタイミング信号(クロック)を持たずに通信することを意味します。同期通信(SPIやI2Cなど)ではクロック線が必要ですが、UARTではその代わりに、データの開始と終了を明示する特別な信号を使用します。

  1. スタートビット: データ送信を開始する際、まず信号線を一時的に特定の状態(通常はLow)に変化させることで、「今からデータが来ますよ」という合図を送ります。
  2. データビット: 実際に送りたい情報(通常8ビット)が続きます。
  3. パリティビット(オプション): データに誤りがないかを検出するために付加されるビットです。信頼性が高まりますが、必須ではありません。
  4. ストップビット: 通信フレームの終了を示す信号です。これにより、受信側は次のデータフレームのタイミングを正確に知ることができます。

このスタートビットとストップビットが、クロック信号の代わりとなり、データの区切りを明確に定義してくれます。

ただし、非同期通信を成立させるためには、送信側と受信側が、データを送る速度であるボーレート(Baud Rate)を完全に一致させておく必要があります。例えば、両者が9600 bps(ビット/秒)で設定されていなければ、受信側はデータを読み取るタイミングを間違えてしまい、データが化けてしまうのです。開発現場では、「ボーレートが合わない!」というトラブルは非常によくある初期段階の課題の一つですね。

このように、UARTはシンプルながらも、組み込み機器の通信を支える非常に重要な基盤技術であり、近距離通信の柔軟性と効率を高めています。

具体例・活用シーン

UARTは、目に見えないところで多くのIoT製品や電子工作キットで活躍しています。

GPSモジュールとの連携

IoTデバイスが位置情報を取得するためにGPSモジュールを使用する場合、GPSモジュールは衛星から受け取った位置データ(NMEAフォーマットなど)を、マイコンに対してUART経由で連続的に送出します。マイコンは、このシンプルなUART接続を通じて、複雑な位置情報データを簡単に受け取ることができるのです。

デバッグコンソールとしての利用

組み込み機器開発において、最も頻繁にUARTが使用されるのがデバッグ(動作確認)の場面です。マイコンのプログラムが意図通りに動いているかを確認するため、マイコンのUARTポートをPCのUSBポートに接続し(間にUSB-TTL変換チップを介します)、マイコンの内部状態や変数値をテキストメッセージとしてPCのターミナル画面に出力します。これは、組み込み機器の「黒い箱」の中身を覗き見るための窓口のような役割を果たしています。

【比喩による理解:手旗信号と電報】

UARTの通信方式は、「手旗信号と電報を組み合わせた、独自のローカル通信ルール」に例えることができます。

通常の同期通信(SPIやI2Cなど)が、指揮者のタクト(クロック)に合わせて大勢が同時に演奏するオーケストラだとすれば、UARTは、指揮者なしで二人だけで行う電報のやり取りに似ています。

  1. 速度の共有(ボーレート): まず、「私たちは1秒間に9600回点滅する速さで信号を送ることにしよう」と、事前に速度を約束します。これがボーレートです。
  2. 開始の合図(スタートビット): 信号を送りたい側は、まず「これから大事なメッセージを送るぞ!」という特別な合図(旗を大きく振る)を送ります。
  3. メッセージの送信(データビット): 約束した速度に合わせて、メッセージの本体(ビット)を順番に送っていきます。
  4. 終了の合図(ストップビット): 全てのメッセージを送り終えたら、「これで終わりです」という別の合図(旗を静かに下ろす)を送ります。

受信側は、開始の合図を検知したら、約束の速度でタイミングを計りながらデータを受け取ります。このルールのおかげで、余計な配線(クロック線)なし

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この記事を書いた人

両親の影響を受け、幼少期からロボットやエンジニアリングに親しみ、国公立大学で電気系の修士号を取得。現在はITエンジニアとして、開発から設計まで幅広く活躍している。

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