SPI(エスピーアイ)
英語表記: SPI (Serial Peripheral Interface)
概要
SPI(エスピーアイ)は、主に組み込み機器(IoTデバイスやマイコン)内で使用される、高速な同期式シリアル通信プロトコルです。マイコンなどのマスタデバイスと、センサー、メモリ、ディスプレイコントローラなどのスレーブデバイスを接続し、近距離で効率的にデータを交換するために設計されました。非常にシンプルな構造ながら、データの送受信を同時に行える「全二重通信」に対応しており、リアルタイム性が求められる組み込みシステムにおいて欠かせない技術の一つです。
詳細解説
SPIは、組み込み機器(IoTデバイス, マイコン)における「通信とネットワーク」の中でも、特にチップ間や基板内の「近距離通信」を実現する重要なインターフェースです。その設計思想は、複雑なプロトコル処理を排除し、速度と信頼性を最優先することにあります。
動作原理と主要コンポーネント
SPI通信は、マスタデバイスが通信の主導権を握り、クロック(タイミング)を生成する「マスタ・スレーブ方式」を採用しています。通信を確立するために、通常4本の専用信号線を使用します。これがSPIの核となる部分です。
- SCK (Serial Clock): マスタが生成する通信のテンポを決める信号線です。このクロックがあるため、送信側と受信側のタイミングが完全に同期します(同期通信)。
- MOSI (Master Out, Slave In): マスタからスレーブへデータが出力される(送信される)信号線です。
- MISO (Master In, Slave Out): スレーブからマスタへデータが出力される(応答・受信される)信号線です。
- SS / CS (Slave Select / Chip Select): マスタが特定のチップ(スレーブ)を選択し、通信を開始・終了するために使用する信号線です。マスタは、複数のスレーブデバイスの中から、どのデバイスと話したいかをこの信号線で選びます。
全二重通信の優位性
SPIの大きな特徴は、MOSIとMISOが独立している点にあります。これにより、マスタがスレーブにデータを送っている最中も、スレーブはマスタに応答データを返すことが可能です。これは「全二重通信」と呼ばれ、電話のように双方向で同時に会話できる状態を指します。
組み込み機器の文脈では、例えばマイコンがセンサー(スレーブ)に対して「データを要求するコマンド(MOSI)」を送ると同時に、センサーは前回の計測結果を「マイコンに報告する(MISO)」といった処理が可能です。この同時並行処理能力が、データロギングや高速な制御が必要なIoTデバイスのパフォーマンス向上に大きく貢献しています。
I2Cとの比較
同じ近距離通信の代表格であるI2C(アイ・スクエア・シー)と比較すると、SPIは信号線が多い(I2Cは2本)ですが、その分、通信速度が圧倒的に速い傾向にあります。また、I2Cがデバイスごとにアドレスを設定して通信相手を識別するのに対し、SPIはSS(スレーブ選択)線で直接デバイスを選択するため、プロトコル処理が非常にシンプルです。このシンプルさが、高速化とマイコンの負荷軽減につながっています。
したがって、組み込み機器の設計において、低速で配線を減らしたい場合はI2Cが選ばれがちですが、大容量のデータを高速でやり取りしたい場合は、配線が増えてもSPIが積極的に採用されるのです。この選択が、デバイスの性能を左右すると言っても過言ではありません。
具体例・活用シーン
SPIは、組み込み機器(IoTデバイス, マイコン)の内部で、気づかないうちに非常に多くの役割を果たしています。
活用シーン
- フラッシュメモリとの接続: マイコンがプログラムや設定データを保存する外部フラッシュメモリ(EEPROMやNOR/NANDフラッシュ)は、高速な読み書きが必要なため、SPIで接続されることが非常に多いです。
- A/Dコンバータ、D/Aコンバータ: アナログ信号をデジタルに変換したり、その逆を行ったりするコンバータLSIとマイコン間のデータ転送にも使われます。特に高精度でサンプリングレートが高い(高速なデータ取得が必要な)デバイスで重宝されます。
- 小型液晶ディスプレイ(LCD): 組み込み機器に使われる小型のLCDコントローラへの画像データ転送や制御コマンド送信にSPIが利用されます。画像データを瞬時に更新する必要があるため、高速なSPIが適しています。
アナロジー:指揮者とオーケストラ
SPI通信の仕組みは、「指揮者(マスタ)とオーケストラ(スレーブ)」の関係に例えると非常に分かりやすいです。
- 指揮者(マスタ)の役割: マイコンである指揮者は、まず「誰に演奏させるか(SS線でスレーブを選択)」を決めます。
- テンポの指定(SCK): 指揮者はタクトを振って「テンポ(クロック)」を指定します。このテンポに全員が従うため、演奏(通信)のタイミングがずれません。
- 楽譜の指示(MOSI): 指揮者は演奏者(スレーブ)に対して「この楽譜を演奏しなさい」と指示を出します(MOSI)。
- 演奏のフィードバック(MISO): 演奏者(スレーブ)は、指示を受けながら同時に「演奏の結果」や「準備ができた」という報告を指揮者に返します(MISO)。
このシステムでは、指揮者が選んだ特定の演奏者だけが、指揮者のテンポに合わせて指示を受け取り、すぐにフィードバックを返すことができます。この一連の動作が、組み込みシステムにおける高速で正確なデータ交換を可能にしているのです。
資格試験向けチェックポイント
SPIは、特に基本情報技術者試験や応用情報技術者試験の組込みシステム分野で頻繁に出題される重要なテーマです。ITパスポートでは、シリアル通信や近距離通信の概念として間接的に問われることがあります。
- 同期通信であること: SPIは、マスタが生成するクロック(SCK)によって通信タイミングを同期させる「同期通信」方式である点を必ず覚えておきましょう。I2Cも同期通信ですが、UART(非同期通信)との区別が重要です。
- マスタ・スレーブ構造: 通信を制御する側(マスタ)と、制御される側(スレーブ)の関係を理解してください。マスタがクロックとスレーブ選択信号(SS)を制御します。
- 全二重通信: データの送受信を同時に行える「全二重通信」が可能である点が、他のシリアル通信方式と比較して大きな強みとなります。信号線(MOSIとMISO)が分かれているためです。
- I2Cとの違い: 速度、配線数、アドレス指定の有無に関する比較問題は非常に頻出します。
- SPI: 高速、配線が多い(最低4本)、アドレス指定なし(SSで選択)。
- I2C: 低速、配線が少ない(2本)、アドレス指定あり。
- 信号線の役割: SCK、MOSI、MISO、SSの4本の信号線がそれぞれどのような役割を果たすかを問う問題が出ることがあります。特にMOSIとMISOを混同しないように注意が必要です。
関連用語
- I2C (Inter-Integrated Circuit)
- UART (Universal Asynchronous Receiver/Transmitter)
- シリアル通信
- 同期通信
- 全二重通信
関連用語については、上記のリストに加えて、SPIが組み込み機器(IoTデバイス, マイコン)の近距離通信でどのように利用されているかを示す具体的な周辺デバイス(例:フラッシュメモリ、A/Dコンバータ)に関する情報が補強されると、より深い学習につながります。情報不足を解消し、これらのデバイスとの連携についても学ぶことをお勧めします。
