NB-IoT(ナローバンドアイオーティー)

NB-IoT(ナローバンドアイオーティー)

NB-IoT(ナローバンドアイオーティー)

英語表記: NB-IoT

概要

NB-IoT(Narrowband Internet of Things)は、主にバッテリー駆動の組み込み機器(IoTデバイス)を長期間安定してインターネットに接続するために開発された、低消費電力広域(LPWA)通信技術の一つです。これは、既存の携帯電話ネットワーク(LTE)のインフラを活用しつつ、極めて狭い帯域幅(ナローバンド)のみを使用することで、電力効率とカバレッジ(通信可能範囲)を最大限に高めることを目的としています。大量の高速データ通信には向きませんが、温度や位置情報といった少量のデータを、低コストかつ長寿命で送信する必要がある組み込み機器のインターネット接続において、現在最も注目されている技術の一つです。

詳細解説

この技術は、「組み込み機器(IoTデバイス, マイコン)」が「通信とネットワーク」を通じて「インターネット接続」を確立する際の、最大の課題である「電力制約」と「カバレッジ不足」を克服するために設計されました。NB-IoTは、その名の通り、非常に狭い周波数帯域(通常180kHz)のみを利用することで、通信モジュール自体をシンプルにし、結果としてデバイスの製造コストと運用コスト(電力消費)を大幅に削減しています。

組み込み機器にとってのメリット:

IoTデバイスは、一度設置されると数年間バッテリー交換ができない場所で動作することが多いため、通信モジュールには極端な省電力が求められます。NB-IoTは、この要求に応えるために、以下の二つの重要な仕組みを採用しています。

  1. 深いスリープモード(PSM/eDRX)の活用:
    NB-IoTモジュールは、データを送信し終えるとすぐに、深い睡眠状態であるPSM(Power Saving Mode)やeDRX(extended Discontinuous Reception)に入ることができます。これは、マイコンやセンサーがデータを収集する間、通信モジュールがほとんど電力を消費しない状態を維持できるということです。これにより、組み込み機器のバッテリー寿命を10年以上持続させることも可能になります。これは、通信とネットワークの設計において、非常に革新的な進化だと感じます。
  2. カバレッジの強化(浸透性の向上):
    狭い帯域幅を利用することで、電波を遠くまで飛ばしやすくなり、また、コンクリートの壁や地下室など、通常電波が届きにくい場所への浸透性(カバレッジの深さ)が向上します。これは、都市部の地下に設置された水道メーターや、ビルの奥深くに設置されたセンサーなど、設置場所を選ばないIoTデバイスのインターネット接続を可能にする重要な特性です。

動作原理:

NB-IoTは、既存のLTE基地局の周波数帯域を利用して動作します。独立した帯域(スタンドアローン)、既存のLTE帯域内の空き領域(ガードバンド)、または既存のLTEキャリア内のリソースブロック(インバンド)など、柔軟な方法で展開できるため、携帯電話事業者は比較的容易にサービスを開始できます。通信速度は数10kbps程度と非常に低速ですが、これは組み込み機器が送る「少量の定期的なデータ」には十分すぎる速度です。重要なのは速度ではなく、「確実に、長く、安価に繋がる」ことなのです。

この技術の登場により、これまで有線接続や高価な衛星通信に頼らざるを得なかった多くの組み込み機器が、安価で広範囲なインターネット接続を手に入れることができるようになりました。

具体例・活用シーン

NB-IoTは、その特性上、特に「低頻度・少量データ・長寿命」が求められる組み込み機器のインターネット接続において、圧倒的な強みを発揮します。

【アナロジー:伝書鳩 vs. 効率的な郵便】

かつてのIoTデバイスの通信は、まるで「伝書鳩」のようなものでした。データを送るたびに、デバイスは大きなエネルギー(バッテリー)を消費し、通信が途切れるリスクもありました。

しかし、NB-IoTは、「極めて燃費の良い電気自動車で、毎日決まった時間に小さな手紙だけを届ける、超効率的な郵便システム」のようなものです。

この「電気自動車(NB-IoTモジュール)」は、送るべきデータ(手紙)がたまるまで深い睡眠に入っており、目覚めたらすぐに手紙をポスト(基地局)に投函し、またすぐに休眠します。ガソリン(電力)は最小限しか使わず、一度の充電(バッテリー)で何年も走り続けることができるのです。これが、組み込み機器のバッテリー寿命を劇的に延ばす秘密です。

活用シーン

  • スマートシティにおけるインフラ監視(メーター類):
    水道やガスのスマートメーターは、通常、地下や建物の奥まった場所に設置されます。これらのメーター(組み込み機器)は、検針データという少量のデータを数時間ごと、あるいは1日に1回、「インターネット接続」する必要があります。NB-IoTの優れた浸透性と長寿命設計は、これらのメーターの自動検針に不可欠です。
  • 環境センサーネットワーク:
    山間部や農場など、電源や有線ネットワークがない広大なエリアに設置された、気温、湿度、水位などの環境センサー。これらのセンサーは、NB-IoTモジュールを介してデータを送信することで、広範囲をカバーしつつ、バッテリー交換の手間を最小限に抑えることができます。
  • 物流・資産追跡(アセットトラッキング):
    高価な貨物コンテナや移動パレットに、NB-IoT対応の追跡デバイス(組み込み機器)を取り付けます。このデバイスは、数ヶ月にわたって位置情報や振動データを送信し続ける必要があります。低電力であるため、小型化が可能であり、電源のない場所でも長期間の追跡を可能にしています。

これらの活用シーンはすべて、組み込み機器が「いかに効率よく、長期間にわたりインターネットに

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この記事を書いた人

両親の影響を受け、幼少期からロボットやエンジニアリングに親しみ、国公立大学で電気系の修士号を取得。現在はITエンジニアとして、開発から設計まで幅広く活躍している。

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