Sigstore(シグストア)
英語表記: Sigstore
概要
Sigstoreは、ソフトウェアのサプライチェーンにおけるセキュリティを劇的に向上させるためのオープンソースプロジェクトです。特にKubernetesやOpenShiftといったコンテナオーケストレーション環境において、デプロイされるコンテナイメージやその他の成果物が、本当に開発者が意図したものであり、改ざんされていないことを検証するためのデジタル署名基盤を提供します。これにより、ソフトウェアの起源と完全性を保証し、「信頼できるソフトウェア」のみを本番環境へ導入できるようにすることが目的です。これは、セキュリティとガバナンスの観点から、サプライチェーンの安全性を確保する上で非常に重要な取り組みだと感じています。
詳細解説
サプライチェーンの課題とSigstoreの必要性
現代のオーケストレーション環境では、何千ものコンテナイメージが自動的にビルドされ、レジストリに格納され、そしてデプロイされます。この自動化された流れのどこかで悪意のあるコードが挿入されたり、意図しないバージョンがデプロイされたりするリスクが存在します。これが「ソフトウェアサプライチェーン攻撃」です。従来のデジタル署名は、秘密鍵の管理が非常に複雑で、大規模なCI/CDパイプラインに適用するのが難しいという課題がありました。
Sigstoreは、この鍵管理の複雑さを解消しつつ、すべてのソフトウェア成果物に対して透明性のある署名と検証の仕組みを提供します。これは、オーケストレーション環境におけるセキュリティとガバナンスを確立するための決定的な要素です。
主要コンポーネント
Sigstoreは主に以下の3つのコンポーネントで構成されており、これらが連携して機能します。
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Cosign(コサイン):
- 開発者がコンテナイメージやバイナリなどの成果物に署名するために使用するコマンドラインユーティリティです。
- 従来の煩雑な秘密鍵管理を不要にし、OIDC(OpenID Connect)プロバイダーを通じて一時的な署名証明書を取得する「キーレス署名」を可能にします。これは非常に革新的で、開発者の負担を大幅に軽減してくれます。
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Fulcio(フルシオ):
- Sigstoreの公開認証局(CA)の役割を果たします。
- CosignがOIDCプロバイダー(GitHub, Googleなど)から認証情報を提示すると、Fulcioは短期間だけ有効な署名証明書を発行します。これにより、署名者が「誰であるか」を強力に証明できます。
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Rekor(レコア):
- すべての署名と検証情報を公開し、改ざん不可能な形で記録する「透明性ログ(Transparency Log)」です。
オーケストレーション環境での動作原理
KubernetesやOpenShiftの文脈でSigstoreがどのように機能するかを見ていきましょう。
- 署名の実行(CI/CDパイプライン): 開発者がコードをコミットし、CI/CDパイプラインがコンテナイメージをビルドします。パイプライン内でCosignが実行され、Fulcioから一時的な証明書を取得し、イメージに署名します。署名情報と証明書はRekorに記録されます。
- レジストリへの格納: 署名されたイメージはコンテナレジストリにプッシュされます。
- 検証とデプロイ(オーケストレーター): KubernetesクラスターがPodを起動しようとするとき、Admission Controller(KyvernoやOPAなど)が介入します。
- ポリシーの適用: Admission Controllerは、デプロイ対象のイメージにSigstoreの署名が付いているか、そしてその署名がRekorに記録されているかをチェックします。
- 信頼の確立: 署名が有効で、信頼できる開発者によって作成されたことが確認できた場合のみ、Podのデプロイが許可されます。もし署名が欠けていたり、Rekorの記録と一致しなかったりすれば、デプロイは拒否されます。
このように、Sigstoreは開発者の手元から本番環境のKubernetesクラスターに至るまで、イメージのライフサイクル全体をデジタルな鎖で結びつける役割を担っています。これにより、悪意のある中間者攻撃や意図しない変更がデプロイされることを防ぎ、セキュリティ体制を劇的に強化できるのです。
具体例・活用シーン
Sigstoreの仕組みを理解するために、身近な例に置き換えて考えてみましょう。
物語:厳格な「ソフトウェア納品チェック」
あなたの会社(Kubernetesクラスター)は非常に機密性の高いシステムを動かしており、使用するソフトウェア(コンテナイメージ)には最高の信頼性が求められています。
従来の鍵管理方式は、まるで「印鑑証明書と実印」を開発者全員に持たせて、納品書に押印してもらうようなものでした。鍵の紛失や盗難リスクが高く、管理が大変すぎます。
Sigstoreの導入は、この納品プロセスを現代化するようなものです。
- 納品者(開発者)の証明: 開発者は、納品する直前に、一時的な身分証明書(Fulcioが発行する証明書)を、公的な身分証明書(OIDC認証)に基づいて取得します。
- 納品物への封印(Cosign): 開発者は、納品物(コンテナイメージ)に、この一時的な証明書を使った電子的な封印を施します。
- 公的記録(Rekor): この封印の事実(誰が、いつ、何を封印したか)は、すぐに公証役場のような公開台帳(Rekor)に記録され、誰でも閲覧できるようにされますが、一度記録されたら誰も消したり改ざんしたりできません。
- 受け取り時の検証(Admission Controller): 会社(Kubernetes)の受付担当者(Admission Controller)は、納品されたソフトウェアを受け取る際、以下の3点を確認します。
- 封印が破られていないか?(イメージの完全性)
- 封印に使われた証明書は本物か?(Fulcioによる検証)
- この封印の記録は公証役場(Rekor)に確かに存在するか?(透明性の確認)
この「厳格な納品チェック」を自動で、かつ鍵管理の手間なしで実現するのがSigstoreの最大の強みです。Kubernetes環境では、このチェックが数秒で自動的に行われるため、サプライチェーン攻撃のリスクを大幅に下げながら、デプロイのスピードを維持できるのです。
活用シーンの具体例
- 内部レジストリのガバナンス強化: 企業内のプライベートレジストリに格納されるすべてのコンテナイメージに対し、CI/CDパイプライン内で署名を義務付け、署名のないイメージはデプロイを拒否するポリシーを設定します。
- オープンソースソフトウェアの信頼性確保: 外部のオープンソースプロジェクトがSigstoreを使って配布物を署名している場合、ユーザーはその署名を検証することで、ダウンロードしたバイナリが公式のものであることを容易に確認できます。
- 規制対応: 金融や医療など、厳格な監査要件が求められる業界において、Rekorの透明性ログを利用することで、「この本番環境で稼働しているコードは、〇月〇日〇時に、担当者Aによって承認されたものである」という確固たる証拠(監査証跡)を提示できるようになります。
資格試験向けチェックポイント
Sigstoreは、特に「応用情報技術者試験」や「情報処理安全確保支援士試験」などの高度試験において、ソフトウェアサプライチェーンセキュリティの最新動向として出題される可能性が高い領域です。
- 最重要キーワード: 「ソフトウェアサプライチェーンセキュリティ」「デジタル署名」「透明性ログ(Rekor)」「キーレス署名(Keyless Signing)」は必ず押さえてください。
- Kubernetesとの関連: Sigstoreが単なる署名ツールではなく、KubernetesのAdmission Controller(認可制御)と連携し、デプロイ前のセキュリティポリシー適用を可能にする仕組みを理解しておく必要があります。この文脈では、コンテナイメージの「完全性」と「真正性」を保証する技術として問われます。
- Sigstoreの三要素: Cosign(署名ユーティリティ)、Fulcio(CA)、Rekor(透明性ログ)の役割分担を明確に覚えましょう。特にRekorは、第三者による改ざんを困難にし、監査証跡を提供するという点で、従来の署名システムとの決定的な違いを生んでいます。
- 試験対策のヒント: なぜSigstoreが従来のPKI(公開鍵基盤)よりも優れているのか?それは「秘密鍵の長期管理が不要になる」点と「公開されたログによる監査可能性」が追加された点です。このメリットを記述できるように準備しておくと良いでしょう。
関連用語
- 情報不足
- Sigstoreはサプライチェーンセキュリティにおける重要な要素ですが、この文脈をさらに深掘りするには、以下の関連用語の情報が必要です。
- SLSA(サルサ): ソフトウェアのサプライチェーンにおけるセキュリティレベルを評価するためのフレームワーク。
- SBOM(Software Bill of Materials): ソフトウェアに含まれるすべてのコンポーネントをリスト化したもの。
- Notary / TUF: コンテナイメージの署名と信頼できるアップデートのための標準技術。
- OPA/Kyverno: Kubernetes環境でポリシーを適用し、Sigstoreの検証結果に基づいてデプロイを制御するツール群。
