Cosign(コサイン)
英語表記: Cosign
概要
Cosign(コサイン)は、コンテナイメージやその他のデジタル成果物に対して、署名、検証、および保存を簡単に行うために設計されたオープンソースのコマンドラインツールです。このツールが属するオーケストレーション環境、特にKubernetesやOpenShiftといったシステムにおいて、非常に重要な役割を果たします。具体的には、デプロイされるコンテナイメージが信頼できる作成者によって署名され、かつ改ざんされていないことを保証することで、セキュリティとガバナンスを確立します。これにより、ソフトウェアの出所から利用に至るまでの経路全体(すなわちサプライチェーン)の安全性を高めることができるのです。
詳細解説
サプライチェーンセキュリティの文脈におけるCosignの目的
Kubernetes環境では、アプリケーションはコンテナイメージとしてパッケージ化され、レジストリから取得されて実行されます。しかし、このコンテナイメージが開発者の手を離れてから実際に本番環境で実行されるまでの間に、悪意のある改ざんや意図しない変更が加えられるリスクが存在します。これが「サプライチェーン攻撃」と呼ばれる脅威です。
Cosignの最大の目的は、このサプライチェーンのリスクを最小限に抑えることです。Cosignは、開発者が「このイメージは私が作成し、内容に問題がないことを保証します」というデジタルな証明書(署名)をイメージに付与するプロセスを劇的に簡素化します。そして、Kubernetesクラスター側で、その署名が有効であることを確認(検証)できなければ、イメージの実行を拒否するというガバナンスを実現するのです。
キーレス署名とSigstoreエコシステム
Cosignは、より広範なオープンソースプロジェクトである「Sigstore(シグストア)」エコシステムの一部として開発されました。Sigstoreは、ソフトウェアの整合性と透明性を確保するための標準を提供しており、Cosignはその主要な実装ツールの一つです。
従来のデジタル署名では、秘密鍵の管理が非常に複雑で、その漏洩リスクが常に問題でした。Cosignが画期的なのは、秘密鍵をユーザー自身が厳重に管理する必要のない「キーレス署名(Keyless Signing)」という手法を提供している点です。
- 一時的な鍵の生成: 署名プロセス中、一時的な秘密鍵と公開鍵のペアが生成されます。
- OIDCによる認証: 開発者は、GitHubやGoogleなどの信頼できるOpenID Connect(OIDC)プロバイダを通じて認証を行います。これにより、「誰が署名したか」という身元情報が確立されます。
- 証明書の発行と透明性ログへの記録: 生成された公開鍵と、OIDCで得られた身元情報を含む署名証明書が、SigstoreのコンポーネントであるFulcio(フルシオ)によって発行されます。同時に、この署名情報がRekor(レコー)という改ざん不可能な「透明性ログ」に記録されます。
- 検証: イメージを利用する側は、Rekorに記録されたログを参照し、このイメージが特定のIDを持つ開発者によって、いつ、どのように署名されたのかを検証できます。
このように、Cosignは複雑な鍵管理の負担を減らしながら、透明性ログという第三者的な証拠を組み合わせることで、サプライチェーンの信頼性を飛躍的に高めているのです。これは、KubernetesやOpenShiftといった大規模なオーケストレーション環境において、数多くのコンテナイメージを安全に運用するためのセキュリティとガバナンスの土台となります。
オーケストレーション環境での適用
KubernetesやOpenShiftといったプラットフォームでは、Admission Controller(アドミッションコントローラー)と呼ばれる仕組みを利用して、Cosignによる署名検証を強制します。
具体的には、新しいコンテナイメージがクラスターにデプロイされようとするとき、Admission Controllerが介入し、「このイメージに有効なCosign署名が付いているか?」「その署名は許可された開発者によるものか?」をチェックします。署名が確認できない、あるいは無効な場合は、デプロイメント自体が拒否されます。これにより、署名されていない、または改ざんされたイメージが本番環境で実行されることを防ぎ、システム全体のガバナンスを維持できるのです。
具体例・活用シーン
Cosignは、ソフトウェアのライフサイクル全体を通じて、信頼性の高い「デジタルな品質保証スタンプ」を押す役割を担います。
活用シーン:CI/CDパイプラインにおける自動署名
現代のアプリケーション開発では、継続的インテグレーション/継続的デプロイメント(CI/CD)パイプラインが一般的です。
- ビルド完了: 開発者がコードをコミットし、CI/CDツール(例:Jenkins, GitHub Actions, GitLab CI)がコンテナイメージをビルドします。
- Cosignによる署名: イメージがレジストリにプッシュされる直前に、パイプライン内でCosignコマンドが実行され、自動的にキーレス署名が付与されます。このとき、パイプラインの実行者(CI/CDシステム)の身元情報も署名に含まれます。
- デプロイ時の検証: Kubernetesクラスターは、デプロイメントリクエストを受け取った際、Admission Controllerを通じて、レジストリから取得したイメージに付いているCosign署名を確認します。
- 実行の許可/拒否: 署名が有効で、かつRekorログにも記録されていることが確認できれば、デプロイが許可されます。もし署名がなければ、クラスターは「このイメージは信頼できない」と判断し、実行を拒否します。
アナロジー:デジタルな品質保証スタンプ
Cosignの役割を理解するための良い比喩は、「製造業における品質保証のスタンプ」です。
想像してみてください。あなたは重要な部品を製造する工場を経営しています(これはコンテナイメージを作成する開発チームです)。部品(コンテナイメージ)が完成したら、出荷前に必ず品質検査部門(CI/CDパイプライン)がチェックし、「間違いなく合格品である」という認証スタンプ(Cosign署名)を押します。
このスタンプには、「誰が」「いつ」「どの検査基準で」合格させたかという情報がデジタル的に埋め込まれ、その記録は公的な台帳(Rekor透明性ログ)に記録されます。
部品を受け取る側(Kubernetesクラスター)は、受け取った部品にこのスタンプが押されているかをまず確認します。スタンプがなければもちろん拒否します。さらに、スタンプが偽造されていないか、台帳の記録と一致するかを照合します。
Cosignの導入は、この「スタンプ押印と記録照合」のプロセスを自動化し、サプライチェーン全体で「この部品は本当に私たちが作ったものだ」という信頼性を保証するために不可欠なのです。これにより、誰かが途中で偽の部品をすり替える(イメージを改ざんする)ことを防ぎ、オーケストレーション環境のセキュリティを飛躍的に向上させることができます。
資格試験向けチェックポイント
Cosign自体が直接的にITパスポートや基本情報技術者試験で問われる可能性は低いですが、その背景にある概念は、特に応用情報技術者試験のセキュリティ分野で非常に重要です。
| 試験レベル | 重点的に押さえるべき点 |
| :— | :— |
| ITパスポート/基本情報技術者 | サプライチェーンセキュリティの基礎: ソフトウェアの供給経路における改ざんリスクを理解し、その対策として「デジタル署名」や「信頼性の検証」が必要であることを理解しましょう。 |
| 応用情報技術者 | コンテナセキュリティとSigstoreエコシステム:
1. コンテナイメージの信頼性: コンテナイメージの出所と整合性を保証する重要性。
2. サプライチェーン攻撃対策: 開発環境から実行環境に至るまでのセキュリティ対策(DevSecOpsの文脈)。
3. デジタル署名技術: 公開鍵暗号基盤(PKI)の利用、およびCosignが採用するキーレス署名の概念(鍵管理の負担軽減)のメリット。
4. 透明性ログ(Rekor): 改ざん不可能なログによって、署名記録の存在証明と公開性を提供する仕組み。ゼロトラスト環境における検証要素として問われる可能性があります。 |
試験対策のヒント:
- キーワード連想: 「Cosign」を見たら、「コンテナイメージ署名」「Sigstore」「サプライチェーンセキュリティ」「Kubernetes/OpenShiftのガバナンス」を連想できるようにしてください。
- 「誰が、何を、いつ」の保証: Cosignは単に署名するだけでなく、「誰が(OIDC認証)」「どのイメージを」「いつ(Rekorログ)」署名したかを証明するシステムである、という点を理解しておくと、応用レベルの問題に対応しやすくなります。
関連用語
- 情報不足
- 情報不足: Cosignを理解するためには、Sigstoreエコシステム(Fulcio、Rekor)や、Kubernetesにおけるセキュリティポリシー適用メカニズム(Admission Controller、Kyvernoなど)の知識が不可欠です。これらの用語を併せて学ぶことで、オーケストレーション環境におけるセキュリティとガバナンスの具体的な手法がより深く理解できます。
- 情報不足: また、「Software Bill of Materials (SBOM)」(ソフトウェア部品表)も、サプライチェーンの透明性を高める上でCosignと密接に関連する重要な用語です。これらの用語をこの記事に追加することで、読者の理解がさらに深まるでしょう。
