RAID レベル(RAID: レイド)
英語表記: RAID Levels
概要
RAID レベルとは、複数の補助記憶装置(ストレージ)であるハードディスクドライブ(HDD)やソリッドステートドライブ(SSD)を仮想的に一つにまとめ、データの信頼性(耐障害性)や処理性能を向上させる技術(RAID: Redundant Array of Independent Disks)における、具体的な構成方式を定めたものです。この技術は、コンピュータの構成要素の中でも、特にデータの永続的な保管を担う補助記憶装置(ストレージ)の分野において、信頼性・耐障害性を確保するために不可欠な概念となっています。RAIDレベルを選択することは、システムの可用性とコスト効率のバランスを決定する上で非常に重要な判断となります。
詳細解説
RAID技術の主な目的は、ストレージに障害が発生した場合でも、データが失われるのを防ぎ、システムを継続して稼働させることです。これは、信頼性・耐障害性という文脈で、コンピュータシステム全体を支える根幹部分と言えます。
RAIDレベルは、ディスクの組み合わせ方、データの書き込み方、そして故障発生時の回復メカニズムによって、主に0から6、そして複合レベル(10など)に分類されます。レベルごとに、性能、利用可能な容量、そして最も重要な耐障害性の度合いが大きく異なります。
動作原理と主要なレベル
1. RAID 0(ストライピング)
データファイルを細かく分割し、複数のディスクに分散して同時に書き込みます。これにより読み書きの速度が劇的に向上します。しかし、冗長性(予備)の仕組みが一切ないため、構成ディスクのどれか一つでも故障すると、すべてのデータが失われてしまいます。性能は向上しますが、信頼性・耐障害性の観点からは最も劣ります。
2. RAID 1(ミラーリング)
同じデータを常に二つのディスクに書き込みます。片方のディスクが故障しても、もう一方のディスクに全く同じデータが残っているため、システムは停止せずに稼働を続けられます。これは非常に高い信頼性・耐障害性を提供しますが、使用できる容量は総容量の半分になってしまうため、コスト効率は低めです。
3. RAID 5(パリティ分散ストライピング)
3台以上のディスクを使い、データと共に「パリティ(誤り訂正符号)」と呼ばれる冗長情報を分散して書き込みます。パリティは、もし1台のディスクが故障した場合に、残りのディスクの情報から失われたデータを計算によって復元するための「チェック情報」の役割を果たします。ディスク1台分の容量をパリティに使用するため、容量効率と信頼性・耐障害性のバランスが非常に優れており、多くの企業システムで採用されています。
4. RAID 6(二重パリティ)
RAID 5の仕組みを拡張し、二種類のパリティ情報を使用します。これにより、最大でディスク2台が同時に故障してもデータを復旧できます。RAID 5よりもさらに高い信頼性・耐障害性が求められる、ミッションクリティカルな環境で利用されます。
5. RAID 10(RAID 1+0)
RAID 1(ミラーリング)でデータを保護した上で、さらにRAID 0(ストライピング)で高速化を図る構成です。高い性能と高い信頼性・耐障害性を両立しますが、最低4台のディスクが必要で、利用可能容量は総容量の半分になるため、コストは高くなります。
このように、RAIDレベルを選ぶことは、ストレージというコンピュータの構成要素に対して、どのようなレベルの信頼性・耐障害性を付与したいかという設計思想を反映していると言えるでしょう。
具体例・活用シーン
RAIDレベルの概念は、私たちが日常で重要な情報をどのように保管するか、という問題に置き換えて考えると、非常に理解しやすくなります。
アナロジー:重要な書類の保管方法
あなたが非常に重要なビジネス書類(データ)を持っており、これを安全に、かつ迅速に取り出せるように保管したいとしましょう。この保管方法が、RAIDレベルの考え方に対応します。
1. 高速だが危険な保管(RAID 0)
書類を複数の担当者に分けて、それぞれが手分けして保管庫に運びます。作業は速いですが、担当者の一人が書類を紛失したり、保管庫が一つでも火事になったりすると、分割された情報が揃わなくなるため、書類全体が使い物にならなくなってしまいます。スピード最優先の、少し怖い方法ですね。
2. 完全な二重化保管(RAID 1)
書類をコピー機で完璧に複製し、常に二つの異なる保管庫に同じ書類を入れておきます。片方の保管庫が使えなくなっても、もう一方の保管庫からすぐに書類を取り出せます。容量は倍必要ですが、安心感は抜群です。補助記憶装置(ストレージ)の信頼性・耐障害性を最優先するなら、この方法が最適です。
3. 復元可能な分散保管(RAID 5)
書類を分割して複数の保管庫に入れますが、それとは別に「もし一部が失われたら、残りの情報から失われた部分を再現できる魔法のチェックリスト(パリティ)」を分散して保管します。保管庫が一つ壊れても、チェックリストと残りの情報があれば、失われた書類を完璧に復元できます。これがRAID 5の基本的な考え方です。容量効率も良く、ビジネスで最も一般的に使われる方式です。
活用シーンの例
- RAID 0: 高速な編集作業が求められる動画編集用の作業領域など、データが失われても再作成が容易な環境。
- RAID 1: 起動ディスクや、小規模なサーバーのデータベースなど、停止が許されないが容量はそれほど必要ないシステム。
- RAID 5/6: ファイルサーバー、Webサーバー、仮想化基盤など、容量効率と信頼性・耐障害性の両立が求められる中規模以上のシステム。
このように、コンピュータの構成要素としてのストレージが、システム全体の可用性を保証するために、どのRAIDレベルを採用するかは、そのシステムの役割によって慎重に決定されるべき事項なのです。
資格試験向けチェックポイント
ITパスポート試験、基本情報技術者試験、応用情報技術者試験において、RAID レベルは補助記憶装置(ストレージ)の信頼性・耐障害性を問う定番テーマです。特に、主要なレベルの特性比較と、パリティの概念が頻繁に出題されます。
典型的な出題パターンと学習のヒント
- RAID 0, 1, 5の比較:
- それぞれの特徴(ストライピング、ミラーリング、パリティ分散)を正確に覚えましょう。
- 特に「耐障害性がないものはどれか?」→ RAID 0。「容量効率が最も悪い(50%)が、信頼性が高いのはどれか?」→ RAID 1。「1台の故障に耐えられ、容量効率も良いのはどれか?」→ RAID 5。この三択の比較は必須です。
- パリティの理解:
- RAID 5やRAID 6で使われる「パリティ」が、具体的にどのような役割(データの復元)を果たしているのかを説明できるようにしてください。パリティは、データそのものではなく、データ復元のための冗長情報であることを理解することが重要です。
- 利用可能容量の計算:
- ディスクN台(容量C)で構成した場合の利用可能容量の計算問題が出ます。
- RAID 0: N × C
- RAID 1: C (Nが偶数台の場合、C × N/2)
- RAID 5: (N – 1) × C
- 特にRAID 5の「N-1」を間違えないように注意が必要です。この計算は、コンピュータの構成要素の効率的な利用を問う問題として重要です。
- ディスクN台(容量C)で構成した場合の利用可能容量の計算問題が出ます。
- RAID 6の特性:
- 応用情報技術者試験では、RAID 6が「2台のディスク障害に耐えられる」という点が問われることがあります。高い信頼性・耐障害性が必要な理由と結びつけて学習しましょう。
これらの知識は、単なる暗記ではなく、「なぜこのレベルがこの耐障害性を持つのか」という、補助記憶装置の設計思想を理解する上で役立ちます。
関連用語
- 情報不足
(関連用語としては、ストライピング、ミラーリング、パリティ、ホットスペア、冗長化などが挙げられますが、本記事のインプット情報としては提供されていません。)