字句解析

字句解析

字句解析

英語表記: Lexical Analysis

概要

字句解析(Lexical Analysis)は、コンパイラやインタプリタといった「言語処理系」の「フロントエンド」において、必ず最初に行われる非常に重要な処理プロセスです。入力されたソースコードの文字ストリームを読み込み、プログラミング言語として意味を持つ最小単位である「トークン」(字句)へと分割・識別する役割を担っています。この工程を通過することで、単なるテキストファイルだったコードは、機械が構造的に処理できるデータ形式へと変換され、続く「構文解析」フェーズのための土台が築かれます。

詳細解説

字句解析は、言語処理系の構造において、入力と構文解析の橋渡しをする役割を担っています。

処理の目的と重要性

私たちが書くソースコードは、コンピュータにとってはただの連続した文字の並びに過ぎません。しかし、ifwhile が予約語であること、total が変数名であること、+ が足し算の演算子であることを理解しなければ、プログラムとして実行することはできません。字句解析の最大の目的は、この文字の並びの中から、意味を持つ塊(トークン)を正確に切り出し、それがどのような種類(型)であるかを識別することにあります。

この処理がコンパイラのフロントエンドで失敗すると、その後の構文解析や意味解析は一切実行できません。まさに、言語処理系のすべての工程のスタートラインを担っているのです。

字句解析器(レクサ)の動作原理

字句解析を行うプログラムは「字句解析器」または「レクサ」(Lexer)、あるいは「トクナイザ」(Tokenizer)と呼ばれます。レクサは、主に以下の仕組みに基づいて効率的に動作します。

  1. 正規表現の利用: 各プログラミング言語の文法は、予約語、識別子(変数名)、定数、演算子などのパターンを定義しています。レクサは、これらのパターンを正規表現(Regular Expression)として定義ファイルに持っています。例えば、「識別子はアルファベットで始まり、その後にアルファベットまたは数字が続く」といったルールです。
  2. 有限オートマタによる照合: レクサは、入力ストリームの文字を一文字ずつ読み進めながら、定義された正規表現に照らし合わせていきます。この照合プロセスは、効率的なアルゴリズムである有限オートマタ(Finite Automata)によって実現されています。これは、現在の状態と入力文字に応じて次の状態へ遷移する機械モデルであり、高速なパターンマッチングを可能にしています。
  3. トークンの生成: パターンに完全に一致する文字の塊を見つけたら、レクサはその塊を一つの「トークン」として確定させます。トークンは通常、「トークンの種類」(例:予約語、識別子、整数定数)と「字面」(実際にソースコードに書かれていた文字列)のペアとして出力されます。
  4. ノイズの除去: プログラミングの可読性を高めるために不可欠な空白文字(スペース、タブ、改行)やコメントは、プログラムの実行には直接的な影響を与えません。字句解析の段階で、これらの「ノイズ」はほとんどの場合、取り除かれるか無視されます。これにより、フロントエンドの次のステップである構文解析は、意味のある情報だけを処理できるようになり、処理負荷が大幅に軽減されるわけです。

このように、字句解析は、文字という低レベルな情報から、プログラミング言語としての意味を持つ高レベルな情報へと抽象度を上げる、非常に洗練されたプロセスなのです。

具体例・活用シーン

字句解析の働きを理解するために、身近な例やコードの処理過程を見てみましょう。

アナロジー:文章の読解と単語帳づくり

ソースコードを「外国語で書かれた非常に長い文章」だと想像してみてください。

  1. 入力: 文字が延々と並んでいます。(例:Thequickbrownfoxjumpedover...
  2. 字句解析(レクサ)の役割: 私たちが文章を読むとき、文字の連続から「単語」や「句読点」を区切りますよね。レクサはこれと同じことを行います。どこまでが一つの意味の塊なのか、スペースや記号を頼りに判断します。
  3. トークンの生成: レクサは、文章を読んで区切った塊(単語)に対して、「これは動詞だ」「これは名詞だ」「これは句読点だ」とラベル(種類)を貼って、「単語帳リスト」を作成します。この単語帳リストこそが「トークン列」です。

もし字句解析がなければ、私たちは文章を読む際に、文字を一つずつ追うだけで、どこが単語の切れ目なのか分からず、意味を理解する次のステップ(構文解析)に進めません。字句解析は、まさに「文字の海」から意味の「単語」を救い出す、言語処理系にとっての辞書作成係なのです。

コード処理の具体的な流れ

C言語風の簡単な式を例に、字句解析がどのように機能するかを見てみましょう。

入力ソースコード:

c
if ( count >= 10 )

字句解析後の出力(トークン列):

字句解析器は、スペースや改行を無視しつつ、以下のようなトークン列を生成します。

  • トークン 1: 種類: 予約語 (KEYWORD), 字面: if
  • トークン 2: 種類: 記号 (DELIMITER), 字面: (
  • トークン 3: 種類: 識別子 (IDENTIFIER), 字面: count
  • トークン 4: 種類: 演算子 (OPERATOR), 字面: >=
  • トークン 5: 種類: 整数定数 (LITERAL), 字面: 10
  • トークン 6: 種類: 記号 (DELIMITER), 字面: )

このトークン列は、コンパイラの「フロントエンド」における次の処理である「構文解析」に渡されます。構文解析器は、文字の羅列ではなく、この構造化されたトークンリストに基づいて、「もし(if) カウント(count) が 10 以上(>=) ならば、という条件文が成立している」という文法的な構造を解析していくのです。

資格試験向けチェックポイント

字句解析は、ITパスポート試験(IT Passport)や基本情報技術者試験、応用情報技術者試験において、コンパイラの動作原理に関する問題で頻繁に出題されます。特に「コンパイルと言語処理系 → 言語処理系の構造 → フロントエンド」という文脈で、その役割を正確に理解しておくことが重要です。

| 試験レベル | 頻出キーワードとポイント |
| :— | :— |
| ITパスポート/基本情報 | トークン: 字句解析によって生成される意味の最小単位。この用語は必ず覚えてください。 |
| | 字句解析器(レクサ): 字句解析を行うプログラムの名称。 |
| | 処理の順番: 字句解析は、必ず構文解析の前に行われるフロントエンドの最初の処理であること。 |
| | 正規表現・有限オートマタ: 字句を識別するための基礎技術。特に正規表現は、パターンマッチングのツールとして重要です。 |
| 応用情報技術者 | 処理対象: 入力は「文字ストリーム」、出力は「トークン列」であること。 |
| | ノイズ処理: コメントや空白文字の除去がこの段階で行われるという具体的な処理内容。 |
| | フロントエンドの構造理解: コンパイラ/インタプリタの全体構造の中で、字句解析がどのように位置づけられ、次の構文解析にどのように情報を引き渡すのかを説明できること。 |

試験対策のコツ:
「字句解析」の役割は、文字ストリームを「単語」(トークン)に分解すること、とシンプルに覚えてしまえば、多くの選択問題に対応できます。応用レベルでは、なぜ正規表現や有限オートマタを使うと効率が良いのか、その技術的な背景も問われることがありますので、ぜひ理解を深めてください。

関連用語

字句解析は、言語処理系のフロントエンドを構成する他の要素と密接に関連しています。

  • 構文解析 (Syntax Analysis): 字句解析によって生成されたトークン列を受け取り、そのトークン列がプログラミング言語の文法(ルール)に従っているかをチェックし、抽象構文木(AST)を構築する処理です。字句解析が「単語のリストを作る」作業なら、構文解析は「その単語を使って文法的に正しい文章を作る」作業にあたります。
  • トークン (Token): 字句解析の結果として得られる、意味を持つ最小単位。
  • 字句解析器 (Lexer / Tokenizer): 字句解析を行うソフトウェアモジュール。
  • 正規表現 (Regular Expression): 字句のパターンを定義するために使用される記法。

情報不足:

本記事では、字句解析の概念と原理に焦点を当てましたが、実際の開発現場で使用される具体的な字句解析器生成ツール(例:Lex/Flexなど)や、異なるプログラミング言語(例:Python, Java, C++)における字句解析の実装の詳細、また、字句解析の処理効率に関する詳細なベンチマークデータなど、応用的な情報が不足しています。これらの情報は、特に応用情報技術者試験の記述問題や、実際の言語処理系開発の理解を深める上で重要となります。

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この記事を書いた人

両親の影響を受け、幼少期からロボットやエンジニアリングに親しみ、国公立大学で電気系の修士号を取得。現在はITエンジニアとして、開発から設計まで幅広く活躍している。

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