VA(ブイエー)
英語表記: VA (Virtual Address)
概要
VA(仮想アドレス)とは、コンピュータの構成要素の中で、プログラムがメモリを参照する際に使用する、抽象化された論理的なアドレスのことです。これは、プログラムが動作するために必要なメモリ空間を、あたかも連続した巨大な領域であるかのように見せるための仕組みです。実際の物理メモリ上のアドレス(物理アドレス:PA)とは異なり、OSと制御装置の一部であるメモリ管理ユニット(MMU)によって、物理アドレスに変換されて初めて利用されます。VAの導入により、限られた物理メモリを複数のプログラムで安全かつ効率的に共有することが可能になるのです。
詳細解説
VAは、現代のマルチタスク環境において、システムの安定性と効率性を両立させるための根幹を成す技術です。特に、この記事が対象としている「コンピュータの構成要素」→「制御装置」→「MMU」という階層の中で、VAはMMUがその存在意義を発揮するための入力情報として極めて重要です。
制御装置(MMU)におけるVAの役割
CPUが命令を実行し、メモリにアクセスしようとする際、CPUは必ずVAを発行します。このVAを受け取り、適切に処理するのが、制御装置のサブユニットであるMMUの役割です。
1. メモリの抽象化と保護
VAシステムの最大の目的は、プログラムに「自分専用のメモリ空間」を提供し、物理メモリの制約から解放することです。
プログラムは、他のプログラムがどこに配置されているか、物理メモリがどれだけ空いているかを知る必要がありません。VA空間内では、アドレスは0番地から始まる連続した領域として扱われます。これにより、開発者はメモリの物理的な配置を気にせず、プログラムロジックに集中できます。
さらに、各プログラムに独立したVA空間を与えることで、あるプログラムが暴走しても、他のプログラムのVA空間や、OSの重要な領域に勝手にアクセスすることを防ぎます。これは、VAがシステム全体のセキュリティと安定性を「制御」していると言える、大変重要な機能です。
2. アドレス変換の動作原理
VAが実際に物理メモリにアクセスするためには、制御装置のMMUによる変換が不可欠です。この変換は、主にページング方式に基づいて行われます。
- VAの発行: CPUがメモリへのアクセス要求とともにVAを発行します。
- VAの分割: MMUはこのVAを受け取ると、「ページ番号」と「オフセット(ページ内の位置)」の二つの部分に分割します。ページは、仮想メモリ空間と物理メモリ空間を対応付けるための固定長の最小単位です。
- ページテーブル参照: MMUは、OSが管理するページテーブルを参照します。ページテーブルは、特定のページ番号(VAの一部)が、物理メモリ上のどのフレーム(物理メモリの区画)に対応しているかを記録した対応表です。
- PAの生成: MMUはページテーブルから対応する物理フレームの先頭アドレスを取得し、それにVAのオフセットを加算することで、最終的な物理アドレス(PA)を確定させます。
この一連の変換処理は、命令の解釈と実行を円滑に進めるために、極めて高速に行われる必要があります。そのため、MMUはTLB(Translation Lookaside Buffer)という専用の高速キャッシュを持ち、頻繁に使用されるVAとPAの対応情報を保持することで、ページテーブルへのアクセス回数を減らし、処理速度を劇的に向上させているのです。MMUは、VAという情報を活用し、システム資源(メモリ)へのアクセスを「制御」する、非常に賢い門番のような役割を担っていると考えるとわかりやすいでしょう。
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具体例・活用シーン
VAの概念は、私たちが日常的に利用しているマルチタスク環境において、静かに、そして絶え間なく機能し続けています。
活用シーン:物理メモリを超えるプログラム実行
例えば、お手元のPCの物理メモリが8GBしかないとします。しかし、非常に大きなデータセットを扱う画像編集ソフトや、多数の仮想マシンを同時に起動しようとすると、メモリ使用量が10GBを超える場合があります。
これは、VAシステムによって実現される仮想記憶のおかげです。
- プログラムは、VAを使って12GBのメモリを要求します。
- MMUは、物理メモリ(8GB)に収まり