UART(ユーアート)
英語表記: UART (Universal Asynchronous Receiver-Transmitter)
概要
UARTは、「汎用非同期送受信機」と訳される、コンピュータの構成要素として欠かせないハードウェアモジュールです。これは、コンピュータ内部で高速かつ大量にデータをやり取りするパラレル通信(並列通信)を、外部機器との間でデータ線一本で順序立てて送るシリアル通信(直列通信)へと変換し、その逆の処理も行う役割を担っています。特に、コンピュータの構成要素におけるバス構造(データバス, アドレスバス, 制御バス)が扱うパラレルなデータと、低速な周辺機器や通信ポートが利用するシリアルな信号との間の「通訳」として機能し、シリアル通信の標準的な基盤を提供しています。
詳細解説
バス構造におけるUARTの役割
私たちが今注目しているタクソノミ(コンピュータの構成要素 → バス構造 → シリアル vs パラレル)において、UARTがなぜ重要なのかを理解することが、この概念をマスターする鍵となります。
コンピュータ内部のCPUやメモリは、非常に幅の広いデータバス(例えば64ビット幅)を使って、一度に大量のデータを並行して(パラレルに)やり取りします。これは「高速道路」のようなものです。しかし、コンピュータの外部にあるキーボード、マウス、古くからのモデム、あるいは組み込みシステムのセンサーなど、多くの周辺機器は、コストや配線の都合上、シリアル通信(データ線が少ない、細い山道のようなもの)を利用します。
UARTの最も重要な目的は、この「高速道路(パラレルデータ)」から「細い山道(シリアルデータ)」への切り替え、そしてその逆を、効率的かつ正確に行うことにあります。つまり、パラレルなデータバスとシリアルな外部インターフェースの間で、データの形式を整合させる役割を担う、極めて重要なI/O(入出力)制御装置なのです。
動作原理:非同期性の理解
UARTの名称にある「A」(Asynchronous:非同期)が示す通り、この通信方式の最大の特徴は、送信側と受信側が共通のクロック信号(同期信号)を持たない点にあります。同期通信では、双方が時計(クロック)を共有し、「チクタク」という合図に合わせてデータを送りますが、非同期通信では、データ自体にタイミング情報を含ませる工夫が必要です。
UARTはこの非同期性を実現するために、データ本体の送受信の際に以下の制御ビットを付加します。
- スタートビット (Start Bit): データ送信の開始を相手に知らせるための信号です。通常、アイドル状態(高電圧)から低電圧に変化することで、データの受信を準備させます。
- データビット (Data Bits): 実際に送りたい情報(通常は5〜8ビット)です。
- パリティビット (Parity Bit): 任意で付加される、エラーチェックのためのビットです。データに誤りがないかを確認するために使われます。
- ストップビット (Stop Bit): データ送信の終了を相手に知らせるための信号です。通常、高電圧に戻ることで、次のデータが来るまでの区切りを示します。
送信時、UARTはデータバスから受け取ったパラレルデータ(例:8ビット)を一時的に保持し、スタートビットを先頭に、この8ビットを1ビットずつ順番に(シリアルに)送り出します。最後にパリティビットとストップビットを付加します。受信側では、この逆の処理、すなわちシリアルデータを1ビットずつ受け取り、スタート・ストップビットを取り除き、再びパラレルデータに組み立て直して、コンピュータ内部のデータバスへと渡します。
この仕組みがあるおかげで、低速な周辺機器との通信が、コンピュータの主処理を邪魔することなく、スムーズに行えるようになっているのです。UARTは、物理的なデータ転送方式であるシリアル通信を、コンピュータのバス構造と結びつけるための、まさしく「コア」となる構成要素だと言えるでしょう。
主要な構成要素
UARTモジュールは主に以下の要素で構成されます。
- 送信レジスタ(Tx Register): パラレルデータを受け取り、シリアルデータに変換するシフトレジスタ。
- 受信レジスタ(Rx Register): シリアルデータを受け取り、パラレルデータに変換するシフトレジスタ。
- ボーレートジェネレータ(Baud Rate Generator): 送受信の速度(ボーレート)を決定するためのクロックを生成する回路。非同期通信では、送信側と受信側のボーレートを事前に合わせておく必要があります。
- 制御ロジック: データフローの制御、スタート/ストップビットの付加・除去、エラー(パリティエラーやオーバーランエラーなど)の検出を行う回路。
具体例・活用シーン
1. 組み込みシステムでの活用
現代のマイコン(マイクロコントローラ)やIoTデバイスにおいて、UARTは最も頻繁に使用される通信インターフェースです。例えば、マイコンがGPSモジュールやWi-Fiモジュールと通信する際、ほとんどの場合、UARTが利用されます。UARTはシンプルで実装が容易なため、機器間の設定情報や計測データをやり取りする「基盤の会話」として機能します。
2. デバッグ用コンソール接続
エンジニアがデバイスの動作を確認したり、エラーを解析したりする際、PCとデバイスをUSB-シリアル変換ケーブル(内部でUARTが動作)で接続し、デバッグメッセージをターミナルソフトに出力させます。これは、デバイスが正常に起動しているか、どの処理で停止したかをリアルタイムで確認するための、非常に古典的かつ強力な手法です。
3. アナロジー:手紙の梱包と解体を行う郵便局
UARTの動作は、高速なパラレル通信(大量の荷物を一度に運ぶトラック輸送)と、細い通信線(一枚ずつ送る手紙)を繋ぐ郵便局の作業に例えると理解しやすいです。
コンピュータ内部のデータバスは、一度に10個の荷物(パラレルデータ)を運びます。UARTという名の郵便局の「送信窓口」は、この10個の荷物を受け取ります。
- 梱包(パラレル→シリアル): 郵便局員(UART)は、まず「ここから手紙を送り始めますよ」という目印(スタートビット)を付けます。次に、10個の荷物を一つ一つバラバラにし、順番に封筒(データビット)に入れていきます。最後に「これで終わりですよ」という目印(ストップビット)を付けて、郵便ポスト(シリアル通信線)に投函します。
- 解体(シリアル→パラレル): 受信側の郵便局員(相手のUART)は、ポストから届いた手紙の束を見て、スタートビットを確認し、一つ一つ封筒を開けて中身(データビット)を取り出します。ストップビットを確認したら、取り出した10個の中身を元の形に並べ直し、再びコンピュータ内部のデータバスに戻します。
このように、UARTはデータの形式を変換し、通信の始まりと終わりを明示的に定義することで、クロック信号を共有しない非同期環境でも正確なデータ転送を可能にしているのです。これは、シリアル vs パラレルという通信方式の根本的な違いを吸収するための、賢い解決策だと言えます。
資格試験向けチェックポイント
IT系の資格試験、特にITパスポートや基本情報技術者試験では、UARTそのものの詳細な回路構成よりも、それが担う役割と通信の基本概念が問われます。
| 項目 | 典型的な出題パターンと学習のヒント | 階層構造との関連性 |
| :— | :— | :— |
| シリアルとパラレル | シリアル通信(直列)とパラレル通信(並列)のメリット・デメリットを比較させる問題。UARTはパラレルデータをシリアルデータに変換する役割であることを理解する。 | シリアル vs パラレル の文脈で、変換器として位置づけられる。 |
| 非同期通信 | 非同期通信の特徴(クロック信号がない、スタート/ストップビットを使用する)を問う問題。同期通信(クロック同期)との違いを明確にする。 | UARTの「A」(Asynchronous)の意味を問うことで、通信制御の基本を理解させる。 |
| ボーレート | データの転送速度を示す指標(bps: bits per second)としてボーレートの概念を問う問題。送受信側で設定を一致させる必要があることを覚えておく。 | 通信速度(バスの速度とは異なる)に関する知識として重要。 |
| 関連技術 | UARTを利用した古い規格としてRS-232C(シリアルポート)が問われることがあります。USBやEthernetなどの高速シリアル通信との違いも把握しておく。 | コンピュータの構成要素が外部とどのように連携するかを問う。 |
| エラー制御 | パリティチェック、フレームエラー(ストップビットが検出できない)、オーバーランエラー(受信速度が速すぎて処理が追いつかない)など、UARTが関わるエラーの種類を問う問題。 | データの信頼性確保という側面から、制御バスの役割にも関連する。 |
試験対策としては、「UART = 非同期シリアル通信の変換器」と簡潔に定義し、特にスタートビットとストップビットの役割を確実に押さえておくことが重要です。
関連用語
UARTはシリアル通信の最も基本的な形態ですが、より高速・高機能なシリアル通信規格も存在します。
- USART (Universal Synchronous/Asynchronous Receiver-Transmitter): UARTに同期通信の機能を追加した上位互換のモジュールです。
- SPI (Serial Peripheral Interface): マイクロコントローラと周辺機器間で使われる、より高速な同期シリアル通信方式です。
- I2C (Inter-Integrated Circuit): 2本の信号線(データ線とクロック線)で複数のデバイスを接続できる、同期シリアル通信方式です。
現在、これらの関連用語に関する詳細な情報は情報不足です。これらの用語は、シリアル通信のバリエーションとして、それぞれがどのようなシーンで利用され、UARTと比べてどのような特徴(同期/非同期、必要な配線数、速度など)があるのかを解説することで、コンピュータの構成要素におけるシリアル通信全般の理解が深まります。
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