2.5D IC(ニーテンゴディーアイシー)
英語表記: 2.5D IC
概要
2.5D ICとは、複数の半導体チップ(チップレット)を、シリコン製の中間基板である「インターポーザ」上に高密度に横並びに配置し、一つのパッケージとして統合する先進的なパッケージング技術です。この技術は、半導体技術の中でも特に「パッケージングと実装」の分野で、従来の平面的な接続方法の限界を打破するために開発されました。高性能な演算コアやメモリを高帯域幅で接続することを目的としており、プロセスルールによる微細化の限界が見え始める中で、システム全体の性能を向上させる鍵として非常に注目されています。
詳細解説
階層における位置づけと目的
私たちが今扱っている「2.5D IC」は、半導体技術の進化パスの中でも「パッケージングと実装」という重要なフェーズに属しています。従来の半導体設計では、すべての機能を一つの巨大なチップ(モノリシックIC)に集積しようとしてきましたが、製造歩留まりの低下や設計の複雑化が問題となってきました。
そこで、2.5D ICのような「先進パッケージ」が登場します。これは、個別に製造された小さな機能ブロック(チップレット)を、後工程で効率よく統合するための手法です。これにより、プロセスルールが異なるチップ(例えば、高性能な演算コアと、古いプロセスで十分な入出力回路など)を組み合わせることが可能となり、コスト効率と柔軟性が飛躍的に向上します。
動作原理と主要コンポーネント
2.5D ICの動作の核心は、超高速な通信を実現する「インターポーザ」の使用にあります。
1. インターポーザ(Interposer):
インターポーザは、複数のチップレットが乗る土台となるシリコン基板です。この基板内部には、非常に細かく、高密度な配線層が形成されています。従来のプリント基板(PCB)よりも遥かに微細な配線が可能なため、チップレット間の信号伝送距離が極端に短くなり、結果として信号遅延が減少し、データ転送速度(帯域幅)が劇的に向上します。これは、まさに高速道路のような役割を果たしているとイメージすると分かりやすいですね。
2. チップレット(Chiplet):
CPU、GPU、HBM(高帯域メモリ)、I/Oコントローラなど、特定の機能に特化して個別に製造された小さなチップ群です。これらをインターポーザ上に配置します。必要な機能だけを最適なプロセスルールで製造できるため、設計の自由度が高まります。
3. TSV(Through Silicon Via):
これは「シリコン貫通ビア」と呼ばれる技術で、インターポーザやチップレットを垂直に貫通する電気的な接続経路です。TSVにより、チップレットとインターポーザの間、あるいは(後述する)3D ICのようにチップを積層する際の上下の接続が可能になります。2.5D ICでは、主にインターポーザとパッケージ基板の接続に使われることもありますが、インターポーザ上のチップレットを高密度に接続するために不可欠な技術です。
2.5Dと3Dの違い
この技術が「2.5D」と呼ばれるのは、完全にチップを垂直に積み重ねる「3D IC」と、完全に平面に配置する「2D IC」の中間に位置するからです。
- 2D IC: すべての機能を一つのシリコンダイに集積(モノリシック)。
- 3D IC: チップを垂直に何層も積み重ね、TSVで接続。より高密度だが、熱管理が非常に難しい。
- 2.5D IC: 複数のチップをインターポーザ上に横並びで配置し、インターポーザを介して高密度に接続。積層による熱問題や製造難易度を避けつつ、2Dよりも高い性能を実現します。
この中間的なアプローチが、製造の実現性と性能向上を両立させる、非常に賢い解決策だと私は感じています。
具体例・活用シーン
2.5D IC技術は、特に膨大なデータ処理能力が要求される分野で活躍しています。
高性能コンピューティング(HPC)とAIアクセラレータ
最も有名な活用例は、高性能なGPUやAIアクセラレータ(推論・学習チップ)です。これらのチップは、演算コアの隣に超高速なメモリを配置する必要があります。
- HBM (High Bandwidth Memory) の統合: HBMは、複数のDRAMチップを垂直に積み重ねた(3D構造の)メモリですが、これを演算チップ(CPUやGPU)と接続する際に2.5D ICパッケージが使われます。演算チップとHBMをインターポーザ上に並べることで、従来のパッケージングでは実現不可能な、非常に太いデータバス(接続経路)を短距離で実現できます。これにより、演算チップはメモリからデータを待ち時間なく受け取ることができ、全体の処理速度が飛躍的に向上します。
アナロジー:複合商業施設としての土地活用
2.5D ICの仕組みは、都市計画における「複合商業施設」の建設に例えることができます。
従来のモノリシックIC(2D)は、「巨大なワンフロアのデパート」です。すべての売り場が一つの建物内にありますが、少しでも設計ミスや火災(製造不良)があれば、全てが使えなくなります。
一方、2.5D ICは「広い土地(インターポーザ)の上に、専門性の高い複数の建物(チップレット)を建てる」方式です。
- 土地(インターポーザ): 非常にアクセスが良い、整備された広大な土地です。ここに、地下鉄や高速道路の入り口(高密度配線)が張り巡らされています。
- 専門ビル(チップレット): AI処理専門のビル、高速メモリを保管する倉庫、外部との連絡窓口となるビルなど、それぞれが最適な工法(プロセスルール)で建てられます。
- 地下通路(高密度配線): 各ビルは、土地(インターポーザ)の地下に設けられた超高速な専用通路で直結しています。これにより、ビルの間(チップレット間)での商品のやり取り(データ転送)が、地上を通るよりも遥かに迅速に行えます。
このように、2.5D ICは、個々のチップの良さを活かしつつ、パッケージングの工夫によって全体として最高のパフォーマンスを引き出す、非常に洗練された「先進パッケージ」技術なのです。
資格試験向けチェックポイント
2.5D ICや関連技術は、特に応用情報技術者試験や、半導体技術が深く問われる高度試験(エンベデッドシステムなど)で出題される可能性があります。ITパスポートや基本情報技術者試験では直接的な専門用語として問われることは少ないかもしれませんが、半導体の高性能化のトレンドを理解するために重要です。
| 試験レベル | 重点的に抑えるべきポイント |
| :— | :— |
| 基本情報/応用情報 | パッケージングの進化の理解:微細化(プロセスルール)の限界を補う技術として、パッケージング(実装)が重要になっているというトレンドを理解してください。 |
| 応用情報 | 主要構成要素の理解:「インターポーザ」と「チップレット」が2.5D ICの核となる技術であることを覚えておきましょう。特にインターポーザが超高速な信号伝送路を提供するために使われる点を押さえることが重要です。 |
| 応用情報 | TSV (Through Silicon Via) との関連:TSVは3D ICの代名詞ですが、2.5D ICでもインターポーザ内部や、パッケージ基板との接続において、垂直方向の接続技術として利用されるため、セットで覚えておくと得点源になります。 |
| 一般知識 | 目的:高帯域幅(High Bandwidth)と低消費電力化の実現が、この技術の最大の目的であることを理解しておきましょう。HPC(高性能コンピューティング)やAI分野での活用例と紐づけて覚えると忘れにくいです。 |
関連用語
- チップレット(Chiplet): 特定の機能を持つ小型の半導体ダイ。2.5Dや3Dパッケージングの構成要素となります。
- インターポーザ(Interposer): 2.5D ICにおいて、複数のチップレットを搭載し、高密度配線で接続する中間基板。
- TSV(Through Silicon Via): シリコンを貫通して垂直方向の電気的接続を可能にする技術。
- 3D IC: 複数の半導体チップを垂直に積み重ね、TSVで接続する技術。
- 情報不足: 2.5D ICの普及率や製造における具体的な歩留まり率、主要な採用メーカー(例:AMD, NVIDIA)の具体的な製品名に関する最新の市場動向情報が不足しています。
