ACPI(ACPI: エーシーピーアイ)
英語表記: Advanced Configuration and Power Interface
概要
ACPIは、パーソナルコンピュータにおける電源管理規格の中核をなす技術です。これは、オペレーティングシステム(OS)が、CPU、マザーボード、周辺機器といったコンピュータの構成要素の電源とクロックの供給を、統合的かつ詳細に制御するための共通インターフェースを定めています。ACPIの導入により、従来のBIOS任せの電源管理から脱却し、OSが主導権を握ることで、より高度な省電力機能と利便性の両立が実現しました。私たちが普段利用している「スリープ」や「休止状態」といった機能は、まさにこのACPI規格に基づいて動作しているのですよ。
詳細解説
ACPIは、1990年代後半にIntel、Microsoft、Toshibaなどが共同で開発し、従来のAPM(Advanced Power Management)規格を置き換える形で普及しました。この規格が画期的だったのは、電源管理の権限をBIOS(またはUEFI)からOSへ移譲した点にあります。この構造転換こそが、ACPIを電源管理規格として非常に重要たらしめている理由です。
目的と構成要素
ACPIの主な目的は二つあります。一つは、消費電力の削減と発熱の抑制による環境負荷の低減です。もう一つは、ユーザー体験の向上、つまり、必要なときにすぐにPCを起動でき、使わないときは効率的に電力を節約できる状態を実現することです。
ACPIは、システム全体の状態(グローバル状態)と、個々のデバイスの状態を細かく定義しています。
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G状態(グローバルシステム状態):
これはPC全体がどの程度の電力を使用しているかを示す状態です。- G0/S0 (Working): 完全に動作している状態です。
- G1 (Sleeping): いわゆるスリープやサスペンドの状態です。特にS3(Suspend-to-RAM、メモリに給電しつつ他を停止)が一般的で、私たちが最もよく利用する省電力モードですね。
- G2/S5 (Soft Off): シャットダウン状態ですが、わずかに電力が供給されており、キーボードやネットワークからの起動(Wake-on-LANなど)が可能な状態です。
- G3 (Mechanical Off): 主電源が完全に切断された状態です。
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C状態(CPU状態):
CPUがアイドル状態のときに、どの程度電力を節約するかを示す状態です。C0は動作中、C1以降はクロック停止やキャッシュのフラッシュなどを行い、徐々に深い省電力モードへ移行します。 -
D状態(デバイス状態):
ハードディスクやネットワークカードなどの周辺機器(コンピュータの構成要素)が、どの程度電力を節約するかを示す状態です。D0がフル稼働、D3がオフ状態に対応します。
OS主導の電源管理の仕組み
ACPIの真髄は、OSがハードウェアの状態を把握し、必要に応じてこれらのG/C/D状態を動的に切り替える点にあります。OSはアプリケーションの要求やユーザーの操作に応じて、システムボード上のACPIレジスタやACPIテーブルを介して、ファームウェア(BIOS/UEFI)と連携します。
例えば、ユーザーが一定時間PCを操作しなかった場合、OSはACPIを通じて「システムをS3状態(スリープ)に移行せよ」という指示を出し、CPUはC状態を深め、周辺機器はD状態を深めます。これにより、ハードウェアの電源とクロックが効率的に制御され、電力消費が大幅に削減されるわけです。
この規格がなければ、OSごとに独自の電源管理機能を作成しなければならず、ハードウェアの互換性も維持できません。ACPIは、ハードウェアとOS間の共通言語を提供することで、現代のPCが持つ柔軟で高性能な電源管理機能を実現している、まさに土台となる「電源管理規格」なのですね。
具体例・活用シーン
ACPIの機能は、私たちの日常的なPC操作に深く組み込まれています。
1. ノートPCの利便性を支える
ノートPCの蓋を閉じるという動作は、ACPIによって定義されたイベントとしてOSに通知されます。OSはこれを受け取り、現在の作業状態をメモリに保持したまま、システム全体をS3状態(スリープ)に移行させます。数時間後、蓋を開けると、OSはACPIを通じてハードウェアに復帰を指示し、瞬時に元の作業画面に戻ることができます。
- ポイント: もしACPIがなければ、蓋を閉じるたびにシャットダウンに近いプロセスが必要になり、電源管理が非常に煩雑になってしまいます。ACPIは、このスムーズな「中断と再開」を可能にするための標準的な手順を提供しているのです。
2. スマートハウスの電力マネージャー(アナロジー)
ACPIを理解するための比喩として、「優秀な電力マネージャーを搭載したスマートハウス」を想像してみてください。
従来のAPMのような古いシステムは、家全体の電力(例えば、主電源)をオン・オフすることしかできませんでした。それはまるで、外出するときに家全体のブレーカーを落とすようなものです。再開には時間がかかり、冷蔵庫(メモリ)の中身も心配です。
一方、ACPIという電力マネージャーを導入したスマートハウスは違います。
- 在宅中(S0): すべての機器が稼働しています。
- 就寝時(S3:スリープ): 電力マネージャーは、人が寝ていることを検知すると、テレビや照明(周辺機器)の電源を切り、エアコン(CPU)の稼働レベルを最低限に抑えます。しかし、冷蔵庫(メモリ)だけはデータ(食材)を保持するために電力を供給し続けます。
- 長期不在時(S4:休止状態): 作業状態を安全にハードディスク(不揮発性ストレージ)に書き込み、冷蔵庫への給電も停止します。
この電力マネージャー(ACPI)のおかげで、必要なときに必要な機器だけが電力を使い、無駄なエネルギー消費を防ぐことができるのです。これは、コンピュータの構成要素の効率的な運用そのものですね。
3. 周辺機器の自動設定(Plug and Play)
ACPIは電源管理だけでなく、ハードウェアの構成情報(Configuration)も管理しています。これにより、新しいデバイスをPCに接続した際、OSがそのデバイスの電源要件やリソース(IRQ、DMAなど)を把握し、自動的に設定を行うことができます。これもまた、ACPIが「電源とクロック」だけでなく、広範な「構成要素」の管理を担う規格であることを示しています。
資格試験向けチェックポイント
ACPIは、特に基本情報技術者試験や応用情報技術者試験において、OSやハードウェアの知識を問う文脈で出題されることがあります。ITパスポートでは基礎知識として押さえておきたい用語です。
| 項目 | 確認ポイント | 備考 |
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| ACPIの役割 | OS主導の電源管理規格であること。 | 従来のAPM(BIOS主導)との違いが頻出します。OSがハードウェア資源を制御できる点が重要です。 |
| 主要な状態(S状態) | S0(稼働)、S3(スリープ/Suspend-to-RAM)、S4(休止状態/Suspend-to-Disk)、S5(ソフトオフ)の区別。 | 特にS3とS4の違い(S3はメモリ給電必須、S4はメモリ内容をHDD/SSDに保存)はよく問われます。 |
| 分類上の位置づけ | 「コンピュータの構成要素」の「電源とクロック」を制御する「規格」であること。 | 技術の目的が省電力とハードウェア制御にあることを理解しておきましょう。 |
| 関連技術 | Plug and Play (PnP) 機能との連携。 | ACPIは電源管理だけでなく、デバイスの自動構成にも寄与しています。 |
| 設定場所 | 通常、UEFI/BIOS設定画面でACPIの設定(有効/無効)やモード(S3/S4の動作)を確認できます。 | 実際のシステム設定と結びつけて覚えると忘れにくいです。 |
試験では、「OSがハードウェアの電源管理を一元的に行うための規格は何か?」といった形式や、「スリープ状態(S3)の特徴として正しいものはどれか?」といった具体的な状態に関する知識が問われる傾向にあります。
関連用語
- 情報不足
(関連用語としては、APM (Advanced Power Management)、UEFI/BIOS、Plug and Play、S3/S4状態などが挙げられますが、本テンプレートの要件に基づき「情報不足」と記載します。読者の皆様には、これらの用語も併せて学習されることを強く推奨いたします。)