BSP モデル(BSP: ビーエスピー)

BSP モデル(BSP: ビーエスピー)

BSP モデル(BSP: ビーエスピー)

英語表記: BSP Model (Bulk Synchronous Parallel Model)

概要

BSPモデル(Bulk Synchronous Parallel Model、一括同期並列モデル)は、並列計算機におけるアルゴリズムの設計と、その性能(計算量)を予測するために考案された、構造化された並列処理モデルの一つです。このモデルは、多数のプロセッサが独立して計算を行った後、全体で一斉に同期を取るという「計算と同期の繰り返し」を基本原理としています。特に、並列計算において性能評価を困難にしていた「通信コスト」と「同期コスト」を、明確なパラメータとして分離して扱うことで、並列アルゴリズムの実行時間を理論的に分析しやすくすることを目指しています。

詳細解説

BSPモデルは、「アルゴリズムと計算量」という分野において、並列処理の効率を理論的に分析するための基礎として非常に重要な位置を占めています。従来の並列計算モデル(例えばPRAMモデル)では、プロセッサ間の通信が瞬時に行われる(通信コストがゼロ)と仮定されることが多く、現実の計算機の性能予測には不向きでした。BSPモデルは、この非現実的な仮定を排除し、実際の通信時間と同期時間を考慮に入れることで、より現実的な並列・分散アルゴリズムの評価を可能にしました。

私は、このモデルの最大の功績は、複雑な非同期処理を敢えて「同期」によって構造化し、計算時間の予測に「透明性」をもたらした点にあると感じています。

BSPモデルの主要な構成要素

BSPモデルは、並列計算システムを以下の三つの抽象的な要素で定義します。

  1. プロセッサ群 (P): 独立したローカルメモリを持つ計算要素の集合です。各プロセッサは、他のプロセッサとは独立して計算を実行します。
  2. 通信ネットワーク(ルーター): プロセッサ間でデータをやり取りするための機構です。このモデルでは、ネットワークの性能を抽象化するために「ギャップパラメータ $g$」を導入します。これは、単位データ量あたりの通信コスト(帯域幅の逆数)を表します。
  3. 同期機構(バリア): すべてのプロセッサが特定のフェーズを完了したことを保証するための全体同期メカニズムです。これにかかる時間(同期コスト)を「レイテンシ $L$」として抽象化します。

スーパーステップによる動作原理

BSPモデルの実行は、「スーパーステップ」と呼ばれる明確に区切られた処理の連続として定義されます。すべての並列アルゴリズムは、このスーパーステップの繰り返しとして実行されます。一つのスーパーステップは、以下の三つのフェーズから構成されています。

  1. ローカル計算フェーズ: 各プロセッサがローカルデータのみを用いて独立に計算を実行します。他のプロセッサからのデータに依存しないため、このフェーズでは通信は発生しません。
  2. 通信要求フェーズ: 各プロセッサが、次のスーパーステップで必要となるデータを他のプロセッサに送信する要求を出します。重要なのは、データの送信要求は行われますが、そのデータが実際に利用可能になるのは、このスーパーステップの終わり、つまり同期が完了した後だという点です。
  3. 同期フェーズ(バリア同期): すべてのプロセッサがローカル計算と通信要求の送信を完了した時点で、全体的な同期(バリア)が行われます。最も遅いプロセッサの処理が完了するのを待って、全員が足並みを揃えます。この同期が完了すると、次のスーパーステップに進むことが許可され、通信要求されたデータが利用可能になります。

計算量への応用

この厳格なスーパーステップ構造のおかげで、並列アルゴリズムの実行時間 $T$ は、計算コスト $w$、通信コスト $g \cdot h$、同期コスト $L$ の三つの要素に分解し、定量的に評価できるようになります。この能力こそが、BSPモデルが「アルゴリズムと計算量」の文脈で必須とされる理由です。並列アルゴリズムの設計者は、計算機環境のパラメータ $g$ と $L$ を基に、最適な並列度や通信パターンを理論的に導出することが可能になります。

具体例・活用シーン

BSPモデルを理解するために、大規模なオーケストラの演奏を考えてみましょう。オーケストラは、並列処理モデルの非常に分かりやすい比喩を提供してくれます。

比喩:オーケストラの演奏と指揮者

オーケストラには多数の演奏者(プロセッサP)がいます。彼らは自分の楽譜(ローカルデータ)に基づいて、独立して演奏(ローカル計算)を行います。

  • ローカル計算フェーズ: 各演奏者(バイオリン、チェロ、フルートなど)は、自分のパートに集中して演奏します。
  • 通信要求フェーズ: 演奏中に、他のパート(プロセッサ)から受け取ったメロディやハーモニー(データ)を
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この記事を書いた人

両親の影響を受け、幼少期からロボットやエンジニアリングに親しみ、国公立大学で電気系の修士号を取得。現在はITエンジニアとして、開発から設計まで幅広く活躍している。

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