圧縮

圧縮

圧縮

英語表記: Compression

概要

圧縮(Compression)とは、ストレージデバイス(HDD, SSD, NVMe)にデータを格納する際、そのデータが持つ冗長性(重複した情報)を取り除き、占有する物理的な容量を削減するためのデータ削減技術の一つです。これは、私たちが今学んでいる「ストレージ仮想化と管理」の分野において、限られたリソースを最大限に活用し、コスト効率を高めるために不可欠な技術です。特にエンタープライズ環境や大規模なデータセンターでは、この技術を利用することで、物理的なディスクの購入費用を大幅に抑え、ストレージの効率化を実現しています。

詳細解説

目的とデータ削減技術における位置づけ

データ削減技術には、大きく分けて「圧縮」と「重複排除(Deduplication)」の二つがありますが、圧縮はその中でも最も基本的で広範に使われる手法です。主な目的は、ストレージ容量の節約と、データ転送量の削減によるI/O性能の向上です。

ストレージデバイスの管理において、データ量が爆発的に増加している現代において、物理的な容量を増やすだけではコストが際限なく上昇してしまいます。そこで、データを記録する前に「無駄をなくす」という発想が重要になります。圧縮は、データブロック内のパターンを分析し、「Aという文字が100回続く」といった冗長な部分を「Aを100回」という短い記号に置き換えることで、ファイルサイズを小さくします。

動作原理:可逆圧縮が主流

ストレージシステムで利用される圧縮は、元のデータを完全に復元できなければならないため、「可逆圧縮」(Lossless Compression)が主流です。画像や動画で使われる「非可逆圧縮」(Lossy Compression, 例:JPEG, MPEG)とは異なり、ビジネスデータやシステムファイルでは、1ビットたりとも情報が欠落することは許されません。

代表的な可逆圧縮アルゴリズムには、LZ77/LZ78(Lempel-Ziv系)やハフマン符号化などがあります。これらのアルゴリズムは、以下のようなステップで動作します。

  1. データの分析: 入力されるデータブロック内で、繰り返し現れるパターン(文字列やバイト列)を探します。
  2. 辞書の作成または参照: 既に発見されたパターンを「辞書」としてメモリ上に保持します。
  3. 置き換え: 繰り返しパターンが出現するたびに、そのパターン自体を記録するのではなく、「辞書の何番目のパターンを参照せよ」という短いポインタ(参照情報)に置き換えます。

この処理は、データがストレージに書き込まれる「インライン」(リアルタイム)で行われることが多く、高いCPU処理能力が要求されますが、その分、書き込み直後から容量削減効果が得られます。

ストレージデバイスと圧縮の深い関係

特にSSDやNVMeといったフラッシュストレージにおいては、圧縮は容量削減以上の重要な役割を果たします。SSDは書き込み回数に寿命がありますが、圧縮によってデータ量が減ると、物理的なフラッシュチップへの書き込み総量も減少します。これにより、SSDの寿命(耐久性)を延ばす効果も期待できるのです。これは、ストレージデバイスの管理を行う上で、非常に大きなメリットと言えます。

しかし、圧縮処理にはCPUリソースが必要です。圧縮率を高めようとすると処理が複雑になり、ストレージのI/O遅延(レイテンシ)が増加する可能性があります。そのため、高性能なストレージシステムでは、専用のハードウェアアクセラレータ(圧縮エンジン)を搭載し、メインCPUの負荷を軽減しながら、高速かつ効率的な圧縮を実現しています。データ削減技術を導入する際には、圧縮率と性能のバランスを見極めることが重要です。

具体例・活用シーン

1. データセンターの「魔法の倉庫」

データ削減技術としての圧縮を理解するために、少し比喩を使ってみましょう。圧縮は、まるで「荷造りの達人」が倉庫(ストレージ)を整理するようなものです。

ある会社が、大量の書類(データ)を保管しなければならないと想像してください。もし、すべての書類をそのままの形で段ボールに詰めたら、あっという間に倉庫は満杯になってしまいます。

ここで「圧縮」の達人が登場します。
達人は、書類の山を見て「この書類には『重要』という単語が100回も繰り返されているぞ」と気づきます。達人は、「重要」という単語をいちいち書く代わりに、たった一つの短い記号「★」を定義します。そして、元の書類の「重要」が書かれていた場所すべてを「★」に置き換えます。

結果として、書類の見た目(情報内容)は一切変わらないのに、段ボールの数は半分になりました。これがストレージにおける可逆圧縮の本質です。データの内容を損なうことなく、物理的なスペースを節約し、さらに探したい書類(読み込みたいデータ)を探す時間(I/O時間)も短縮できるのです。この効率化こそが、「ストレージ仮想化と管理」の目標の一つなのです。

2. エンタープライズストレージでの利用

企業のSAN(Storage Area Network)やNAS(Network Attached Storage)では、圧縮は標準機能となっています。

  • バックアップとアーカイブ: バックアップデータを圧縮して保存することで、必要な容量を大幅に削減できます。これにより、長期保存コストが劇的に下がります。
  • 仮想デスクトップ環境(VDI): 多数のユーザーが同じOSイメージやアプリケーションファイルを使用するため、データに極めて高い冗長性があります。圧縮や重複排除を組み合わせることで、VDI環境のストレージ効率は非常に高まります。例えば、100ユーザー分のOSイメージが、圧縮・重複排除によって実質10ユーザー分の容量に収まる、といったことが現実に起こっています。
  • NVMe-oF環境: 高速なNVMe over Fabrics環境においても、圧縮処理をインラインで実行することで、ネットワーク転送量を減らし、実効帯域幅を向上させる効果があります。

これらの活用シーンを通じて、圧縮が単なる容量節約だけでなく、システム全体のパフォーマンスと管理効率に貢献していることがお分かりいただけると思います。

資格試験向けチェックポイント

ストレージの「データ削減技術」としての圧縮は、ITパスポートから応用情報技術者まで、幅広い試験で出題される重要テーマです。特に、他の技術との比較や、メリット・デメリットが問われます。

| 試験レベル | 出題パターンと対策 |
| :— | :— |
| ITパスポート | 定義と種類:「圧縮の目的は何か」「可逆圧縮と非可逆圧縮の違い」を問う問題が出ます。ストレージでは必ず可逆圧縮が使われることを覚えておきましょう。 |
| 基本情報技術者 | 技術と効果:圧縮と重複排除(デデュープリケーション)の違いを明確に理解することが重要です。また、圧縮アルゴリズム(例:LZW法やハフマン符号化)の基本的な概念や、圧縮率の計算方法が問われることがあります。圧縮による容量削減効果と、処理負荷(CPUリソース消費)のトレードオフを理解してください。 |
| 応用情報技術者 | 実装と管理:ストレージ仮想化環境におけるデータ削減技術の適用戦略が問われます。インライン圧縮とポストプロセス圧縮の性能への影響、SSD寿命への貢献(ライトアンプリフィケーションの低減)、そして大規模システムにおける圧縮率の評価方法など、より実践的な知識が求められます。システム設計において、どのデータを圧縮対象とするか(例:既に圧縮されているデータはさらに圧縮しても効果が薄い)といった判断基準も重要です。 |
| 共通重点 | 階層の理解:圧縮は「ストレージ仮想化と管理」を実現するための「データ削減技術」の一部であることを常に意識してください。単なるファイル圧縮ではなく、ストレージシステム全体で効率化を図るための手段である、という文脈を忘れずに。|

関連用語

  • 情報不足
    • (補足が必要な情報): この文脈(データ削減技術)において、圧縮と対比される「重複排除(Deduplication)」や、圧縮処理の方式である「インライン圧縮」「ポストプロセス圧縮」などの関連用語を説明に加えることで、学習効果がさらに高まります。また、SSDの寿命に関連する「ライトアンプリフィケーション(Write Amplification)」も重要な関連用語です。
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この記事を書いた人

両親の影響を受け、幼少期からロボットやエンジニアリングに親しみ、国公立大学で電気系の修士号を取得。現在はITエンジニアとして、開発から設計まで幅広く活躍している。

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