コピーオンライト
英語表記: Copy-on-Write (CoW)
概要
コピーオンライト(CoW)は、補助記憶装置(ストレージ)のデータ管理において、リソースの効率的な利用を目的とした技術です。特にバックアップとアーカイブの文脈では、スナップショット機能を実現するための根幹をなす仕組みとして非常に重要視されています。データに変更(書き込み)が発生するまでは、オリジナルデータと複製データがストレージ上の同じ物理ブロックを共有し、容量を節約します。そして、データが書き換えられそうになった瞬間に初めて、変更前のオリジナルデータが保護のためにコピーされるのが最大の特徴です。
詳細解説
この技術が、コンピュータの構成要素の中でも特に補助記憶装置(ストレージ)のバックアップとアーカイブの分野でなぜ不可欠なのか、その動作原理と目的を詳しく見ていきましょう。
ストレージ効率化の切り札
私たちが日々生成するデータ量は膨大であり、企業や組織にとって、データの継続的な保護(バックアップ)と、過去の特定の時点の状態を保持する(アーカイブ)ことは、運用上避けて通れない課題です。しかし、従来の方式でフルバックアップを頻繁に行うと、ストレージ容量はすぐに逼迫し、バックアップ処理の時間も長大になってしまいます。
コピーオンライトは、この問題を解決するための画期的なアプローチを提供します。最大の目的は、ストレージ容量の消費を最小限に抑えつつ、ほぼ瞬時に「特定の時点のデータ状態」(スナップショット)を作成できるようにすることです。
動作原理:遅延されたコピー
CoWの動作は、「必要な時までコピーを遅延させる」という考え方に基づいています。
- スナップショットの作成(共有): ユーザーがシステムのデータ(オリジナル)に対してスナップショットを作成するよう指示します。この時点では、物理的なデータの複製は一切行いません。スナップショットは、オリジナルデータが格納されているストレージ上のブロックを指し示すポインタ(参照情報)を持つだけです。これにより、スナップショット作成にかかる時間は非常に短く、容量消費もごくわずかです。素晴らしい効率性ですね。
- 書き込み要求の発生: アプリケーションやユーザーが、オリジナルデータに対して新しい情報で上書きする(書き込み)操作を試みます。
- コピーの実行(保護): ここがCoWの核心です。書き込み操作を許可する前に、システムはまず、上書きされる予定のオリジナルデータブロックを読み取り、ストレージ内の別の未使用領域にコピーして保存します。このコピーされたブロックが、スナップショットの実体、つまり「変更前のバックアップデータ」となります。
- データの更新: オリジナルデータがあった場所には、新しいデータが書き込まれ、更新が完了します。
このプロセスを通じて、スナップショットが保持しているのは、オリジナルから変更された部分のデータ(差分)のみとなります。変更されていないデータブロックは、オリジナルのデータとスナップショットの間で引き続き共有され続けます。
バックアップとアーカイブにおける優位性
CoWは、補助記憶装置(ストレージ)の持つスナップショット機能の性能を決定づけます。
- 高速性: 物理的な複製が最小限に抑えられるため、バックアップ取得(スナップショット作成)が非常に高速になり、業務の停止時間を気にせずにデータ保護が可能になります。
- 効率性: 変更されていないデータを共有するため、何世代ものスナップショット(アーカイブ)を保持しても、ストレージ容量を大幅に節約できます。
- データの整合性: 書き込み処理の途中でシステム障害が発生しても、変更前のデータは既に保護されているため、データの整合性が損なわれにくいという大きな利点もあります。
具体例・活用シーン
コピーオンライトは、目に見えないところで、私たちが依存するITシステムを支えています。
1. サーバー環境の瞬間バックアップ
データベースやメールサーバーなど、常にデータが更新され続けるシステムで、CoWは力を発揮します。
- 活用シーン: 従来のバックアップでは、データベースを一時的に停止(フリーズ)させてからデータをコピーする必要がありました。CoWベースのスナップショット機能を使えば、サーバーを稼働させたまま、瞬時に特定の時点のバックアップ(スナップショット)を取得できます。これにより、夜間の限られた時間内で、より頻繁に、きめ細かなデータ保護が可能となります。