データリンク層
英語表記: Data Link Layer
概要
データリンク層は、コンピュータ通信の国際標準モデルであるOSI参照モデルにおいて、第2層に位置する重要なプロトコル階層です。この層の主な役割は、直接物理的に接続された二つの機器間(例えば、あなたのPCとルーター、または隣のPC同士)で、信頼性の高いデータ転送を実現することです。
「コンピュータの構成要素」の中でも、特に「周辺機器とインターフェース」という文脈で考えると、データリンク層はNIC(ネットワークインターフェースカード)といった周辺機器の動作を定義し、ケーブルや無線といった物理的な接続(第1層)を、次のネットワーク層(第3層)へと橋渡しするインターフェースとして機能しています。
詳細解説
データリンク層の目的と機能
データリンク層は、物理層(第1層)が提供する、単なる電気信号や光信号の送受信サービスを、エラーの少ない、より使いやすい通信路へと昇華させる役割を担っています。これは、私たちが「コンピュータの構成要素」として信頼してネットワークを利用するための土台とも言えるでしょう。
1. フレーミング(Frame Creation)
データリンク層は、ネットワーク層から受け取ったデータ(パケット)にヘッダとトレーラを付加し、「フレーム」という単位に分割します。このフレームは、データリンク層で扱う最小単位であり、周辺機器が処理する際の基本構造となります。これは、荷物を送る際に、中身がIPパケット(中身のデータ)だとしたら、送り状と梱包(ヘッダとトレーラ)をつけて、確実に送れる形に整える作業に似ています。
2. 物理アドレス(MACアドレス)による識別
この層の最大のポイントは、「MACアドレス」(Media Access Control Address)を使用することです。MACアドレスは、NICなどの各ネットワーク周辺機器に世界で唯一割り当てられた物理的な識別子です。データリンク層は、このMACアドレスを用いて、同一ネットワーク内のどの機器にフレームを送信すべきかを特定し、正確にデータを届けます。
これは、ルーターやスイッチといった周辺機器が、どのポートにどのコンピュータが繋がっているかを判断し、通信を効率よく行うために不可欠な機能です。もしMACアドレスがなければ、データはネットワーク全体にばらまかれてしまい、インターフェースとしての機能が成り立ちません。
3. エラー制御とフロー制御
物理層は信号の送受信しか行わないため、ノイズなどでエラーが発生しやすいです。データリンク層では、フレームのトレーラ部分に誤り検出符号(CRCなど)を含め、データが破損していないかをチェックします。もし破損が見つかれば、再送要求を行うなどして、信頼性を確保します。さらに、送信側と受信側の処理速度の差によるデータの溢れを防ぐ「フロー制御」も担当します。
階層構造における重要性
データリンク層が「プロトコルと階層」の文脈でなぜ重要かというと、この層が、有線LANの「イーサネット(Ethernet)」や無線LANの「Wi-Fi」といった、私たちが日常的に使うネットワーク技術の基盤となっているからです。
特に、イーサネットは、CSMA/CD(キャリアセンス多重アクセス/衝突検出)というアクセス制御方式を持ち、複数の周辺機器が共有するケーブル上で、どのようにデータを衝突させずに送信するかを定めています。現代ではスイッチングハブの普及により衝突は少なくなりましたが、このアクセス制御の仕組みこそが、データリンク層が周辺機器のインターフェースとして提供する、通信の秩序なのです。この層がなければ、複数のコンピュータが同時に話そうとして、通信はカオスに陥ってしまうでしょう。
具体例・活用シーン
1. スイッチングハブの動作
データリンク層の機能が最も明確に現れるのは、スイッチングハブ(レイヤ2スイッチ)の動作です。スイッチングハブは、フレームのMACアドレスを見て、そのフレームを目的の機器が接続されているポートにだけ転送します。
例えば、あなたのPC(A)が隣のPC(B)にファイルを送りたいとします。PC Aがフレームを送信すると、スイッチングハブはフレームの宛先MACアドレスを読み取ります。もし宛先がPC Bであれば、スイッチはBが繋がっているポートにのみデータを転送します。これは、ネットワーク全体の負荷を減らし、通信のセキュリティと効率を高める上で決定的な役割を果たしています。この動作は、データリンク層が「周辺機器とインターフェース」の動作を直接制御していることを示しています。
2. 郵便局の地域担当者(アナロジー)
データリンク層の役割を理解するために、郵便配達のシステムを考えてみましょう。
- ネットワーク層(第3層): 郵便局の中央集配センター(都市間の輸送を担当。IPアドレスは「住所」)。
- 物理層(第1層): 道路や輸送手段(ケーブルや電波)。
データリンク層は、「地域の郵便仕分け係と配達員」のような存在です。中央集配センター(ネットワーク層)から大きな袋に入った郵便物(パケット)が届くと、配達員(データリンク層)はそれを個別の家(MACアドレス)に確実に届ける作業を担当します。
配達員は、まず「この荷物は隣の街(ネットワーク層)に送るべきか、それともこの地域内(データリンク層)で完結させるべきか」を判断します。地域内の配送であれば、彼は自分の担当エリアの地図(MACアドレステーブル)を見て、確実に隣の家に手渡し(信頼性の高い通信)をします。もし途中で雨に濡れて手紙が破れていたら(エラー制御)、それは彼の責任で再配達を要求するかもしれません。
このように、データリンク層は、広大なネットワーク(IPの世界)と、私たちの手元にある「周辺機器」との間の、最後の、そして最も確実な受け渡しのステップを担っているのです。周辺機器がこのプロトコルを通じて初めて、物理的な接続を意味のある通信に変えることができるのです。
資格試験向けチェックポイント
データリンク層は、IT Passportから応用情報技術者試験まで、非常に頻繁に出題される項目です。特にOSI参照モデルとの対応付けと、物理アドレスの理解が重要になります。
| 試験レベル | 重点出題ポイント | 必須知識 |
| :— | :— | :— |
| ITパスポート | OSI参照モデルの第2層であることの確認。MACアドレスが物理アドレスであり、NICに割り当てられていること。 | 第1層(物理層)と第3層(ネットワーク層)との役割分担。イーサネットの基礎。 |
| 基本情報技術者 | データリンク層の機能(フレーミング、エラー制御、フロー制御)。プロトコル(イーサネット、無線LAN)の具体的な動作原理。 | L2スイッチ(スイッチングハブ)の動作原理(MACアドレステーブルの学習)。CSMA/CDの概念。 |
| 応用情報技術者 | データリンク層を構成するサブレイヤ(LLC、MAC)の役割の違い。高信頼性プロトコル(HDLCなど)の理解。VLANなど、L2技術を活用したネットワーク設計。 | ARP(アドレス解決プロトコル)がL2とL3の橋渡しをどのように行っているかの詳細。セキュリティ(MACアドレスフィルタリングなど)との関連。 |
試験対策のヒント
- 「MACアドレス=第2層」:IPアドレス(第3層)とMACアドレス(第2層)の区別は、常に問われます。MACアドレスは「物理的な機器の識別子」、IPアドレスは「論理的な場所の識別子」と明確に分けて覚えておきましょう。
- 「L2スイッチ」の役割を理解する:スイッチングハブは、データリンク層のプロトコル(MACアドレス)に基づいて動作する周辺機器の代表です。この機器がどのように効率的な通信を実現しているかを理解することが、周辺機器とインターフェースの知識として重要です。
- 周辺機器との関連付け:データリンク層の機能は、NIC(ネットワークインターフェースカード)という「コンピュータの構成要素」に密接に関わっています。この関連性を意識すると、単なるプロトコル名としてではなく、具体的な機能として理解が深まります。
関連用語
- 情報不足
(関連用語として、MACアドレス、イーサネット、L2スイッチ、ARP、NIC、CSMA/CDなどが考えられますが、ここでは情報不足として扱います。これらの用語は、データリンク層の機能を具体的に実現する「周辺機器とインターフェース」の要素として、別途詳細な解説が必要になります。)