ダイシング

ダイシング

ダイシング

英語表記: Dicing

概要

ダイシングとは、半導体製造プロセスの「後工程」において、集積回路が多数形成されたシリコンウェハを、個々の半導体チップ(ダイ)に物理的に切り分ける作業です。前工程でプロセスルールに基づき緻密に作り込まれた回路を、初めて独立した機能部品として取り出すための、極めて重要なステップとなります。半導体技術(プロセスルール, FPGA, ASIC)という大きな文脈の中で、設計されたLSIやASICを、実際に利用可能な製品の形にするための第一歩が、このダイシング工程なのです。

詳細解説

ダイシングは、半導体製造プロセスの流れにおいて、前工程(回路形成)の完了と、パッケージング(最終製品化)の橋渡しをする「後工程」の主要なステップとして位置づけられています。ウェハという巨大な円盤状の基板から、数ミリ角の小さなチップを正確に、かつ大量に切り出すことが求められます。

目的と技術的な要求
ダイシングの最大の目的は、ウェハ上に形成された数多くのチップを、物理的に分離し、次の工程であるパッケージングやボンディングに進めることです。この切断作業は、単にハサミで紙を切るような簡単な作業ではありません。なぜなら、シリコンは非常に硬い材料であり、また、切断時に発生するわずかな振動や応力が、チップの端(エッジ)に「チッピング」と呼ばれる欠けを引き起こし、回路を損傷させてしまうリスクがあるからです。

そのため、ダイシング装置には、サブミクロンレベルの精度で切断位置を制御する技術、そして切断時のダメージを最小限に抑えるための高度な冷却・洗浄技術が不可欠となります。この工程の精度が、製造ライン全体の「歩留まり」(良品率)に直接影響するため、半導体メーカーは常にダイシング技術の改善に努めているのです。

主要な動作原理:ブレードとレーザー
ダイシングには主に二つの手法が用いられています。

  1. ブレードダイシング:
    これは最も歴史が長く、広く利用されている手法です。ダイヤモンド粒子を埋め込んだ非常に薄い円盤状のブレード(刃)を高速回転させ、ウェハのチップ間の境界線(スクライブライン)に沿って物理的に切断していきます。切断時には、純水が大量に噴射され、ブレードの摩擦熱を抑えるとともに、発生するシリコンの切り屑を洗い流します。この手法は装置が比較的安価であるというメリットがありますが、ブレードの厚み(カーフ幅)が必要となるため、チップ間のスペースを広く取る必要があり、また物理的な接触によるチッピングのリスクが伴います。

  2. レーザーダイシング:
    近年、チップの微細化(プロセスルールの進化)や、高硬度な新材料(SiC、GaNなど)の普及に伴い、注目されているのがレーザーダイシングです。高エネルギーのレーザー光をウェハ内部に集光させ、シリコンの結晶構造を改質したり、蒸発させたりすることで、非接触で切断を行います。ブレードを使用しないため、チッピングのリスクが大幅に低減され、さらにカーフ幅を極限まで狭くできるため、ウェハから取り出せるチップの数を増やせる(歩留まり向上に貢献する)という大きな利点があります。特に、微細で高性能なFPGAやASICなどの製造において、レーザー技術は不可欠な存在となりつつあります。

階層内での位置づけ(後工程の重要性)
ダイシングは、「半導体技術」という広大な領域において、設計・製造された回路の品質を最終的に確定させる「後工程」の門番のような役割を担っています。前工程でどんなに優れたプロセスルール(例:7nm, 5nm)で回路を形成したとしても、このダイシングで失敗すれば、その成果はすべて水泡に帰してしまいます。ウェハを扱う最後の物理的な大作業として、その重要性は計り知れないものがありますね。

具体例・活用シーン

私たちが日常的に使用している電子機器に組み込まれている高性能な半導体チップは、すべてこのダイシング工程を経ています。ダイシングの作業は、その精密さと緊張感から、しばしば料理における「食材の切り分け」に例えられます。

アナロジー:完璧なケーキの切り分け
半導体ウェハを、何時間もかけて装飾とトッピング(回路)を施した巨大な特注のデコレーションケーキだと想像してみてください。このケーキは、多くの人が分け合うために、均等なピースに切り分けられる必要があります。

ここでダイシングが果たす役割は、「完璧に設計されたトッピングを崩すことなく、隣のピースに影響を与えず、正確に、素早く、均一なサイズに切り分けること」です。

もし、切り分ける人(ダイシング装置)が不器用で、包丁(ブレード)の入れ方がずれたり、力を入れすぎたりしたらどうなるでしょうか。

  1. トッピングの損傷: ケーキの端の美しい装飾(回路)が崩れてしまい、そのピースは商品価値を失います(不良品)。
  2. 隣のピースへの影響: 切り込みが深すぎたり、振動で隣のピースのクリーム(回路)
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この記事を書いた人

両親の影響を受け、幼少期からロボットやエンジニアリングに親しみ、国公立大学で電気系の修士号を取得。現在はITエンジニアとして、開発から設計まで幅広く活躍している。

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