EX/MEM/WB

EX/MEM/WB

EX/MEM/WB

英語表記: EX/MEM/WB

概要

EX/MEM/WBは、CPUが命令を高速かつ効率的に処理するために採用している「パイプライン処理」を構成する主要な三つの処理段階(ステージ)の略称です。具体的には、命令の実行(EX: Execute)メモリアクセス(MEM: Memory Access)、そして結果の書き戻し(WB: Write Back)を指します。これらのステージは、CPUの仕組み(命令セット, パイプライン)におけるパイプライン処理の核心であり、命令の並列処理(オーバーラップ)を実現することで、CPUのスループットを飛躍的に向上させる「パイプライン段」として機能します。

詳細解説

EX/MEM/WBは、現代の多くのCPUで採用されている古典的な5段パイプライン構造のうち、命令が実際に動作し、計算結果を生み出す中心的なフェーズを担当しています。パイプライン処理の最大の目的は、一つの命令が完了するのを待たずに、次の命令の処理を開始することです。この分業体制が、CPUを常に忙しく稼働させ、高い処理能力を維持する鍵となります。

パイプライン処理における位置づけ

命令処理の5つの基本的な段は、以下の通りに構成されます。

  1. IF (Instruction Fetch):命令を主記憶から取り出す。
  2. ID (Instruction Decode):命令を解読し、必要なオペランド(データ)を準備する。
  3. EX (Execute):命令された演算を実行する。
  4. MEM (Memory Access):メモリへのデータの読み書きを行う。
  5. WB (Write Back):処理結果をレジスタに書き戻す。

この中でEX/MEM/WBは、データが演算され、記憶され、最終的に確定されるという、最もダイナミックな処理を担当しています。

各ステージの具体的な役割

1. EX (Execute: 実行ステージ)

このステージは、命令が要求する算術演算や論理演算を実行する場所であり、パイプラインの中で最も重要度の高い部分の一つです。

  • 役割: CPUの算術論理演算ユニット(ALU)がフル稼働し、加算、減算、ビット操作など、命令コードに基づいた計算を実行します。また、メモリからデータを読み書きする命令(ロード/ストア命令)の場合、ここでメモリアドレスの計算も行われます。
  • 特徴: 複数の命令が同時にこのEXステージに入り、異なる計算を並列で処理できることが、パイプラインの醍醐味です。

2. MEM (Memory Access: メモリアクセスステージ)

実行ステージで計算されたアドレスや、演算結果をメモリに反映させる、あるいはメモリから必要なデータを取得するステージです。

  • 役割: データキャッシュ(Dキャッシュ)を介して、主記憶装置とのデータのやり取りを行います。ロード命令(メモリからレジスタへデータを読み込む)では、ここでデータが取得されます。ストア命令(レジスタからメモリへデータを書き込む)では、ここでデータが書き込まれます。
  • 特徴: メモリへのアクセスはCPU内部の処理に比べて時間がかかるため、このステージでのキャッシュのヒット率(必要なデータがキャッシュにある確率)が、CPU性能に直結します。

3. WB (Write Back: 書き戻しステージ)

命令処理の最終ゴールであり、演算やデータロードによって得られた最終的な結果を、CPU内部のレジスタファイルに書き込み、システムの状態を更新します。

  • 役割: EXステージの演算結果、またはMEMステージで読み込まれたデータを、指定されたレジスタ(R1, R2など)に格納します。この結果は、後続の命令がすぐに利用できるようになります。
  • 特徴: ここで結果が確定することで、その命令は完全に完了したと見なされます。この結果が、次の命令の入力データとなるため、後続の命令との連携において極めて重要です。

CPUの仕組みにおける意義

EX/MEM/WBの分業は、CPUの仕組み(命令セット, パイプライン)におけるパイプライン処理の成功を意味します。もし、EXステージで複雑な計算に時間がかかっても、その間に先行命令のIDステージやIFステージの処理は進み、後続命令はMEMステージやWBステージで完了へと向かいます。これにより、個々の命令の実行時間は短縮されなくても、全体としての処理速度(スループット)が向上するのです。これは、現代のマルチコア・高周波数CPUの基盤技術であり、私たちが日常的に体験する高速なコンピューティング環境を支えています。

具体例・活用シーン

EX/MEM/WBの概念は、日常の「生産ライン」に例えると非常に腹落ちします。

アナロジー:自動車工場での組み立てライン

CPUのパイプライン処理は、自動車工場での効率的な生産ラインにそっくりです。車(命令)はベルトコンベア(パイプライン)に乗って、各工程(ステージ)を流れていきます。

  1. IF/ID (部品調達・設計確認): 車の骨格や部品を集め、設計図を確認します。
  2. EX (エンジン搭載・実行): 車の心臓部であるエンジン(演算結果)を搭載します。
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この記事を書いた人

両親の影響を受け、幼少期からロボットやエンジニアリングに親しみ、国公立大学で電気系の修士号を取得。現在はITエンジニアとして、開発から設計まで幅広く活躍している。

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