Failover Cluster(フェイルオーバークラスター)
英語表記: Failover Cluster
概要
フェイルオーバークラスターは、複数の物理サーバー(ノード)を連携させ、システムの一部に障害が発生した場合でも、自動的に処理を別の健全なノードに引き継がせる(フェイルオーバー)ための高可用性(HA)技術です。Hyper-Vの文脈では、この機能を利用して仮想マシン(VM)の実行環境を冗長化し、基盤となる物理ホストの障害からVMを保護します。これは、仮想化技術(VMware, Hyper-V, KVM)の中でも特に「Microsoft Hyper-V」環境において、エンタープライズレベルの信頼性を実現するための最も重要な「統合機能」の一つなのです。
詳細解説
フェイルオーバークラスターの最大の目的は、計画外のダウンタイムを最小限に抑えることです。仮想化環境において、物理ホストサーバーのハードウェア障害やオペレーティングシステム(OS)のクラッシュは、その上で稼働しているすべての仮想マシンにとって致命的です。フェイルオーバークラスターは、このような単一障害点(Single Point of Failure, SPOF)を排除するために設計されています。
動作の仕組みと構成要素
この機能は、Hyper-VホストOSであるWindows Serverにネイティブに組み込まれており、物理ホストをまたいだVMの継続稼働を可能にします。
- ノード(Hyper-Vホスト): クラスターを構成する個々の物理サーバーです。通常、最低2台以上のノードが必要です。
- 共有ストレージ: クラスター内のすべてのノードからアクセスできる共通の記憶域です。仮想マシンの構成ファイルやVHDXファイル(仮想ハードディスク)はここに保存されます。Hyper-Vクラスターでは、Cluster Shared Volume (CSV) や、Windows Server 2016以降で利用可能なStorage Spaces Direct (S2D) といった技術がよく利用されます。共有ストレージこそが、障害発生時に別のノードが即座にVMを引き継ぐための鍵となります。
- ハートビート(監視機能): クラスターサービスは、ネットワークを通じて常に各ノードの状態を監視しています(ハートビート)。特定のノードからの応答が一定時間途絶えると、障害が発生したと判断されます。
フェイルオーバーのプロセス
ノードに障害が発生した場合、クラスターサービスは以下のように動作します。
- 障害検知: 健全なノードが、障害ノードからのハートビートが停止したことを検知します。
- リソースの引き継ぎ: クラスターサービスは、障害ノード上で実行されていた仮想マシンリソースを、残りの健全なノードのいずれかに割り当てます。
- VMの再起動/再開: 引き継ぎ先のノードは、共有ストレージに保存されているVMの最新の状態(構成ファイルやディスクファイル)を参照し、VMを起動または再開します。このプロセスは非常に迅速に行われるため、VMを利用しているユーザーは、短い中断でサービスが再開されるのを体験できます。
この機能は、単なるバックアップとは根本的に異なります。バックアップはデータの復旧を目的としますが、フェイルオーバークラスターは、サービスの中断を最小限に抑え、稼働状態を維持することに焦点を当てている点が非常に重要です。
統合機能としての価値
このシステムが「統合機能」に分類されるのは、Hyper-Vという仮想化プラットフォームが、Windows ServerのOS機能(ネットワーク、ストレージ、クラスター管理)と密接に連携しているからです。特に、計画的なメンテナンスやハードウェア更新の際にも、フェイルオーバークラスターと連携するライブマイグレーション(Live Migration)機能を利用することで、VMを無停止で別のノードへ移動させることができます。これにより、システムの可用性を保ちながら、運用管理を効率的に行うことが可能になるのです。
もしHyper-Vが単なる独立したハイパーバイザーであったなら、これほど高度でシームレスな高可用性機能を実現するのは難しかったでしょう。OS全体がHAを前提に設計されているからこそ、Hyper-Vの信頼性は高まっていると言えますね。
具体例・活用シーン
フェイルオーバークラスターは、企業の基幹システムや24時間365日稼働が求められるサービスで不可欠です。
- 基幹データベースの冗長化: 企業の売上管理や顧客情報が格納されたSQL ServerなどのデータベースVMは、一瞬の停止も許されません。これらのVMをクラスター環境に配置することで、物理ホストが故障しても即座にサービスが継続されます。
- ドメインコントローラー(Active Directory): 認証サービスを提供するドメインコントローラーは、ネットワーク全体の機能に影響を与えるため、高い可用性が求められます。クラスター化されたHyper-V上で実行することで、安定した認証環境を提供します。
- VDI(仮想デスクトップインフラストラクチャ)環境: 大量の仮想デスクトップをホストしている環境でホストがダウンすると、数百人分の業務が停止してしまいます。クラスターを利用することで、ホスト障害時の影響範囲を最小限に抑えられます。
アナロジー:ダブルパイロットとフライトデータレコーダー
フェイルオーバークラスターの動作を理解するための比喩として、「ダブルパイロット制の飛行機」を想像してみてください。
通常の飛行機(単一の物理サーバー)には一人のパイロット(Hyper-Vホスト)が搭乗しており、そのパイロットが倒れてしまうと飛行機(VMサービス)は墜落してしまいます。
しかし、フェイルオーバークラスター環境の飛行機には、常に二人(ノードAとノードB)のパイロットがコックピットに座っています。この二人は、常に同じフライトデータレコーダー(共有ストレージ)を参照し、飛行に必要なすべての情報(VMの状態、ディスクデータ)を共有しています。
もし、パイロットAが突然体調不良で意識を失った(ノードAのハードウェア障害)としましょう。副操縦士であるパイロットBは、瞬時に操縦を完全に引き継ぎます。飛行機は多少揺れるかもしれませんが、高度を落としたり、飛行を中断することなく、目的地へ向かって飛び続けることができるのです。
この「瞬時の引き継ぎ」こそがフェイルオーバーであり、仮想環境の信頼性を保つ上で非常に重要な役割を果たしています。物理的な故障を恐れずに、安心してVMを稼働させられるのは素晴らしいことです。
資格試験向けチェックポイント
IT関連の資格試験、特にITパスポート、基本情報技術者、応用情報技術者試験において、フェイルオーバークラスターは高可用性(HA)や冗長化の文脈で頻出します。
| 試験レベル | 重点的に抑えるべきポイント |
| :— | :— |
| ITパスポート/基本情報 | 概念理解。フェイルオーバーとは「障害発生時に自動で処理を引き継ぐこと」であり、システムの「高可用性(HA)」を実現する技術であると理解すること。冗長化の手段として認識しましょう。 |
| 応用情報技術者 | 技術的詳細と要件。フェイルオーバークラスターの成立要件、特に「共有ストレージ(SANやCSV/S2D)」が必須である点を問われます。また、クラスター管理における「クォーラム(Quorum)」の概念や、ライブマイグレーションとの違い(計画的か非計画的か)が問われることがあります。 |
| 全レベル共通のキーワード | 冗長化、高可用性(HA)、単一障害点(SPOF)の排除、ライブマイグレーション、共有ディスク。 |
試験対策のヒント:
フェイルオーバークラスターは、あくまで「物理ホストの障害」からVMを守るための技術です。VM内部で動作しているアプリケーションのエラーや、OSのフリーズには、クラスター機能だけでは対応できません(その場合はアプリケーションレベルの冗長化が必要です)。この「保護範囲」を理解しておくことが、応用的な問題に対応するカギとなります。
関連用語
- 高可用性(High Availability: HA)
- 冗長化
- ライブマイグレーション(Live Migration)
- クラスター共有ボリューム(Cluster Shared Volume: CSV)
- 記憶域スペース ダイレクト(Storage Spaces Direct: S2D)
- クォーラム(Quorum)
関連用語の情報不足
現在、上記の関連用語に関する詳しい解説は含まれていません。読者がこれらの用語についてさらに深く理解するためには、各用語の定義とHyper-V環境における役割についての詳細情報が必要です。
