ジオメトリシェーダ
英語表記: Geometry Shader
概要
ジオメトリシェーダは、グラフィックスパイプラインを構成するプログラマブルパイプラインにおける、極めて動的な形状変更を可能にするステージの一つです。頂点シェーダの処理後に実行され、描画の最小単位である「プリミティブ」(点、線、三角形)を単位として処理を行います。このシェーダの最大の特徴は、入力されたプリミティブの数に対して、新しいプリミティブを動的に生成したり、不要なものを削除したりする能力を持つ点にあり、これによりGPU側で複雑な幾何学的ディテールを効率的に追加できます。
詳細解説
ジオメトリシェーダは、現代のリアルタイム3Dグラフィックス、特にグラフィックス(GPU, GPGPU, レイトレーシング)の分野で、表現の自由度を飛躍的に高めた技術です。これは、固定機能パイプラインから、開発者が自由に処理を記述できるプログラマブルパイプラインへ移行する過程で、非常に重要な役割を果たしました。
プログラマブルパイプラインにおける役割
ジオメトリシェーダは、頂点シェーダとラスタライザの間に位置します。頂点シェーダが個々の頂点の位置を計算し終えた後、ジオメトリシェーダは、それらの頂点が構成する意味のある塊、つまりプリミティブ全体を処理対象とします。
最大の目的:トポロジー(接続関係)の変更
ジオメトリシェーダの核心的な機能は、入力されたプリミティブのトポロジーを変化させることです。
- 生成: 入力された一つの三角形から、ディテールを追加するために複数の新しい三角形を生成する(1対多)。
- 削除: 不要なプリミティブ(例えば、遠すぎて見えない小さなオブジェクト)を破棄し、後続の処理を行わせないようにする(1対0)。
- 置換: 入力されたプリミティブを全く別の形状に置き換える。
これにより、CPUが事前に複雑な形状データを用意しなくても、GPUがレンダリングの過程で必要なディテールを「その場で作る」ことが可能になります。これは、データ転送のボトルネックを解消し、GPUの並列計算能力を最大限に活かすための賢い設計と言えるでしょう。
ジオメトリシェーダの処理フロー
ジオメトリシェーダは、入力としてプリミティブ(例:3つの頂点を持つ三角形)を受け取ると、シェーダプログラム内で定義されたルールに従って、新しい頂点群を生成し、それらを新しいプリミティブとして出力ストリームに書き込みます。
例えば、ゲームでキャラクターが水面に落ちた際の水しぶきを考えてみましょう。水面に触れた一点の頂点情報(Point)を入力として受け取り、ジオメトリシェーダはその一点から数十個の小さな四角形(水滴)を生成し、それらにランダムな動きを適用して出力します。この処理が非常に高速に行われるため、ユーザーは非常にリアルで複雑なエフェクトを目にすることができるのです。
テッセレーションとの関係
ジオメトリシェーダはポリゴン(プリミティブ)を増やせますが、多くの高性能グラフィックスAPIでは、より効率的にポリゴンを細分化するために「テッセレーションシェーダ」が導入されています。テッセレーションは、曲面の滑らかさを向上させることに特化していますが、ジオメトリシェーダは、トポロジーを根本から変える(点から四角形を作るなど)という点で、依然として独自の強みを持っています。プログラマブルパイプラインの進化の中で、ジオメトリシェーダは「自由な形状操作」、テッセレーションは「効率的な曲面細分化」という形で役割分担が進んでいると理解しておくと、全体の構造が把握しやすいですよ。
具体例・活用シーン
ジオメトリシェーダが現実のグラフィックスでどのように役立っているかを知ると、その強力さがよくわかります。
1. 衝突時の破片(デブリ)生成
- 活用シーン: 建物や車の破壊シミュレーション。
- 解説: 破壊された瞬間のメッシュ情報(プリミティブ)を入力として受け取ります。ジオメトリシェーダは、そのメッシュを小さな破片(三角形のプリミティブ)に分割し、それぞれに爆発のベクトルと回転を与えます。これにより、CPUが破片一つ一つの動きを計算・管理する手間がなくなり、非常にリアルタイム性の高い破壊表現が可能になります。
2. フィン(ヒレ)の追加
- 活用シーン: パイプやチューブ状の物体に、冷却用のフィンなどの細かいディテールを即座に追加する場合。
- 解説: 2つの頂点からなる線分(Line)を入力として受け取ります。ジオメトリシェーダは、その線分に垂直に、複数の三角形を生成して「ヒレ」のような形状を付与します。これにより、シンプルな入力データから、複雑な工業製品のディテールを自動で生成できるのです。
