init スクリプト(イニットスクリプト)
英語表記: init script
概要
init スクリプトとは、Linuxシステムが起動する際や、システム管理者が特定のサービスを操作する際に、そのサービスの開始、停止、再起動といった動作を自動で制御するために使用されるシェルスクリプトのことです。これは「サーバOS(Linux Server)」において、「サービス管理」を行うための最も古典的かつ重要な仕組みの一つでした。具体的には、システム起動後に最初に動作するプロセスである「initプロセス」(またはその派生システム)によって読み込まれ、Webサーバーやデータベースなどの重要なデーモン(バックグラウンドサービス)を確実に立ち上げる役割を担っています。
このスクリプトは、単なるプログラムの実行ファイルではなく、サービスを安定して運用するための手順書そのものだと考えると分かりやすいでしょう。
詳細解説
サービス管理におけるinitスクリプトの役割
init スクリプトは、私たちが現在学んでいる「Linux サーバ基盤」における「サービス管理」の歴史を語る上で欠かせない存在です。かつて主流だったSystem V init(SysVinit)システムにおいて、すべてのサービス管理の中心的な役割を果たしていました。
その主な目的は、サーバが起動した際に、必要なサービスを正しい順序で、かつ適切な設定で自動的に立ち上げることです。もしこのスクリプトがなければ、システム管理者はOSが起動するたびに手動で数十ものサービスを立ち上げなければならず、非常に非効率になってしまいます。この自動化こそが、サーバ運用において最も重要視される安定性と効率性を支えています。
動作原理と主要コンポーネント
init スクリプトは通常、/etc/init.d/ ディレクトリ配下に配置されます。例えば、WebサーバーであるApache HTTP Serverを管理するためのスクリプトは、/etc/init.d/httpd (または apache2) のような名前で存在しています。
動作の仕組み:
- initプロセスの実行: Linuxカーネルが起動した後、最初に実行されるのがPID 1を持つ「initプロセス」です。
- ランレベルの決定: initプロセスは、システムがどの動作モード(ランレベル)で起動すべきかを決定します(例:マルチユーザーモード、シングルユーザーモード)。
- スクリプトの実行: 決定されたランレベルに基づき、initプロセスは
/etc/rc*.d/ディレクトリを参照します。このディレクトリには、/etc/init.d/内の実際のスクリプトへのシンボリックリンク(ショートカット)が配置されています。 - 順序制御: これらのシンボリックリンクは、
S(Start:開始)またはK(Kill:停止)で始まり、その後に続く2桁の数字(例:S20httpd)によって実行順序が厳密に決められています。数字が小さいものから順に実行されるため、依存関係のあるサービスが確実に先に立ち上がるよう設計されています。
主要な引数:
init スクリプトは、以下のような標準的な引数を受け取れるように設計されています。これは、管理者や上位のサービス管理ツールが統一的な方法でサービスを操作できるようにするためです。
start: サービスを開始します。stop: サービスを停止します。restart: サービスを停止してから再度開始します(設定変更の適用によく使われます)。status: サービスの現在の状態(実行中か否か)を確認します。
このように、init スクリプトは、Linuxサーバにおける「サービス管理」を構造化し、標準化するための基盤を提供していたわけです。Systemdが主流となった現在でも、多くのシステム管理者はこの古典的な仕組みの知識を持っていることが求められます。
Systemdとの関係(発展的な内容)
近年のLinuxディストリビューション(RHEL 7以降、Ubuntu 15.04以降など)では、従来のSysVinitシステムから、より高速で機能豊富な「Systemd」という新しいサービス管理システムへの移行が進んでいます。Systemdでは、init スクリプトの代わりに「ユニットファイル」という設定ファイルを用いてサービスを管理しますが、Systemdは後方互換性のために、従来のinit スクリプトを解釈し、実行する機能も持っています。これにより、古いサービスを新しい環境でも動かし続けることが可能になっています。
具体例・活用シーン
具体的な操作例
あなたが新しいLinuxサーバを構築し、Webサイトを公開するためにApache Webサーバー(httpd)をインストールしたとしましょう。インストール後、Webサーバーがシステム起動時に自動で立ち上がるように設定されているかを確認し、手動で操作するのがinit スクリプトの活用シーンです。
“`bash
サービスの開始
$ /etc/init.d/httpd start
サービスの再起動
$ /etc/init.d/httpd restart
サービスのステータス確認
$ /etc/init.d/httpd status
“`
システム管理者は、これらのコマンドを直接実行することで、Webサーバーという重要な「サービス」を、その設定ファイル(init スクリプト)に従って安全に「管理」できます。
アナロジー:オーケストラの指揮者
init スクリプトの役割を理解するための良い比喩は、「オーケストラの指揮者」です。
サーバの起動処理を、壮大な楽曲の演奏だと考えてみてください。データベース(ドラム)、Webサーバー(バイオリン)、ネットワーク機能(ピアノ)など、多くの「サービス」が、それぞれ独立した楽器として存在しています。
もし指揮者がいなければ、各楽器はバラバラに音を出し始め、聴くに堪えないノイズとなってしまいます。しかし、initプロセスが「指揮者」として立ち上がり、init スクリプトという「楽譜(実行手順)」に従って、どの楽器をいつ、どのくらいの音量(設定)で演奏し始めるかを指示します。
特に、Webサーバーがデータベースに依存している場合、指揮者は必ず「データベース(ドラム)」を先に起動させてから、「Webサーバー(バイオリン)」を起動させる必要があります。init スクリプトは、この起動の順序(ランレベルとS/K番号)を厳密に管理する役割を果たしているのです。これにより、複雑なサーバシステムでも、起動時や停止時に混乱なく、スムーズに動作が保証されます。
資格試験向けチェックポイント
init スクリプトは、特にLinuxの運用管理の基礎を問う試験(基本情報技術者試験の一部、LinuC/LPICなど)において、サービス管理の歴史的背景や基礎知識として出題される可能性があります。
- initプロセスの理解: Linux起動時に最初に実行されるプロセス(PID 1)であり、init スクリプトの実行主体であることを理解しておきましょう。
- 出題パターン: 「Linuxシステムにおいて、すべてのプロセスの親となるプロセスは何か?」
- 配置場所と役割: init スクリプトが
/etc/init.d/ディレクトリに配置され、サービスごとに起動・停止の手順が記述されている点を押さえてください。- 出題パターン: 「SysVinitシステムにおいて、サービスの起動スクリプトが格納される標準的なディレクトリはどこか?」
- ランレベルと実行順序: システムの動作モード(ランレベル)に応じて、
/etc/rc*.d/ディレクトリ内のシンボリックリンク(S/K + 2桁の数字)によって実行順序が制御される仕組みは、応用情報技術者試験でも問われる場合があります。特に「S」がスタート、「K」がキル(停止)を意味することを覚えておきましょう。- 出題パターン: 「SysVinitのサービス起動において、S99というリンクが意味するものは何か?」
- Systemdへの移行: 現代の主流はSystemdですが、init スクリプトは過去のサービス管理の基礎として、またSystemdの知識を深める上での対比として重要です。init スクリプトがSystem V initの方式であることを認識し、現在の主流がSystemdの「ユニットファイル」であるという流れを理解しておくことが、応用的な知識として役立ちます。
この知識は、サーバOS(Linux Server)の「サービス管理」の変遷を理解するために不可欠な要素です。
関連用語
- Systemd (システムディー)
- init プロセス
- ランレベル (Runlevel)
- デーモン (Daemon)
- SysVinit (システム・ファイブ・イニット)
関連用語の情報不足
上記に挙げた用語について、詳細な解説記事を別途作成することで、init スクリプトが位置する「Linux サーバ基盤」の「サービス管理」全体像をより深く理解できるようになります。特に、Systemdは現代のLinuxサービス管理の主流であり、init スクリプトとの比較を通して学ぶことで、知識が定着しやすくなります。
