Intel IDM 2.0(インテルアイディーエムニーテンゼロ)

Intel IDM 2.0(インテルアイディーエムニーテンゼロ)

Intel IDM 2.0(インテルアイディーエムニーテンゼロ)

英語表記: Intel IDM 2.0

概要

Intel IDM 2.0は、世界的な半導体メーカーであるインテルが、2021年に発表した新しい経営戦略であり、従来の垂直統合型デバイスメーカー(IDM)モデルを現代の競争環境に合わせて進化させたものです。従来のIDMが設計から製造までを一貫して自社で完結させていたのに対し、IDM 2.0は、自社製造能力の再強化に加え、外部ファウンドリ(受託製造業者)の積極的な活用、そして自社もファウンドリ事業(Intel Foundry Services: IFS)を立ち上げるという三位一体のハイブリッド戦略を採用しています。これは、半導体産業動向の中で、製造コストと技術難易度が高まる中、IDMというビジネスモデルがIDM/ファブレスの境界を越えて柔軟性を獲得しようとしている極めて重要な事例と言えますね。

詳細解説

Intel IDM 2.0の導入は、半導体業界の構造的な変化に対応するための、インテルによる大きな賭けです。かつてインテルは、設計と製造技術(半導体技術のプロセスルール)の両方で世界をリードしていましたが、近年はTSMCなどのファウンドリ専業企業がプロセス技術の微細化競争で先行する場面が増えてきました。この状況を打開し、再び技術的な優位性を確立するためにIDM 2.0は策定されました。

この戦略は、IDM/ファブレスという既存の分類にとらわれず、それぞれの長所を戦略的に組み合わせることで、製品供給の安定化、コスト効率の向上、そして何よりもプロセス技術の回復を目指しています。

IDM 2.0を支える三つの主要な柱について詳しく見ていきましょう。

1. 設計(製品の革新とリーダーシップ)

インテルは、CPUやGPUといった高性能コンピューティング製品の設計において、引き続きリーダーシップを発揮することを目指しています。IDMの最大の強みは、設計チームと製造チームが密接に連携し、特定のプロセスルールに最適化された高性能なチップを生み出せる点です。IDM 2.0では、この強みを維持しつつ、「チップレット技術」や高度なパッケージング技術を積極的に採用します。これにより、インテルは外部ファウンドリで製造された部品も含めて、一つの高性能な製品として統合することが可能となります。

2. 製造(内部能力の強化と外部委託の柔軟性)

この柱こそが、IDM 2.0の核心であり、従来のIDMモデルからの最大の脱却点です。

  • プロセス技術の再構築: インテルは、製造プロセス技術のロードマップを刷新し、「Intel 7」から始まり、「Intel 20A」「Intel 18A」(Aはオングストロームを示す)といった新しいノード名を導入しました。特に「20A」以降では、ゲートオールアラウンド構造(RibbonFET)や裏面電源供給(PowerVia)といった革新的な半導体技術を導入し、プロセス技術の遅れを取り戻すことに巨額の投資を行っています。
  • 外部ファウンドリの戦略的活用: 従来のIDMでは自社製造が原則でしたが、IDM 2.0では、特定の製品や、最先端ではないものの大量生産が必要なコンポーネントについて、TSMCなどの外部のファウンドリを積極的に利用します。これは、ファブレス企業が持つ柔軟性を取り入れたものであり、自社の製造能力が追いつかない場合や、地政学的なリスクを分散したい場合に、製品投入の遅延を防ぐ重要な手段となります。この外部委託の柔軟性こそが、IDM/ファブレスの境界を曖昧にしている決定的な要素と言えるでしょう。

3. Intel Foundry Services (IFS) の設立

IFSは、インテルが自社の製造工場や技術を、外部の顧客(主にファブレス企業)に提供する事業です。これは、インテルが自社の製造設備をフル活用し、新たな収益源を確保するための非常に野心的な試みです。

IFSは、単に工場を貸し出すだけでなく、インテルが持つ設計IP(知的財産)やパッケージング技術も顧客に提供することで、差別化を図っています。さらに、地政学的な観点から、欧米圏で信頼性の高い製造拠点を提供するという重要な意味合いも持ちます。これは、半導体産業動向におけるサプライチェーンの再編という大きな流れの中で、インテルが単なるデバイスメーカーから、業界のインフラを支える存在へと進化しようとする意思の表れなのです。

具体例・活用シーン

Intel IDM 2.0のハイブリッドな性質を理解するために、自動車メーカーの戦略に例えてみましょう。

伝統的な自動車メーカー(IDM 1.0)は、エンジン、ボディ、内装、すべてを自社工場で設計し、製造していました。しかし、電気自動車(EV)や自動運転といった技術革新が起こり、特定の部品(例:バッテリーやAIチップ)においては、外部の専門サプライヤー(ファウンドリ)の方が圧倒的に高性能で安価に提供できるようになりました。

ここで登場するのが、IDM

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この記事を書いた人

両親の影響を受け、幼少期からロボットやエンジニアリングに親しみ、国公立大学で電気系の修士号を取得。現在はITエンジニアとして、開発から設計まで幅広く活躍している。

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