Jaeger(イェーガー)
英語表記: Jaeger
概要
Jaegerは、クラウドネイティブな環境、特にKubernetesやOpenShiftといったコンテナオーケストレーションシステム上で稼働するマイクロサービス群の「可観測性(Observability)」を劇的に向上させるためのオープンソースの分散トレーシングシステムです。多数のサービスが複雑に連携する中で、特定のユーザーリクエストがどのサービスを経由し、どこで遅延が発生しているかを明確に可視化することが主な目的です。これにより、複雑化したオーケストレーション環境における監視とトラブルシューティングの効率が飛躍的に向上します。
詳細解説
オーケストレーション環境におけるJaegerの役割
現代のアプリケーションは、Kubernetesのようなオーケストレーションシステム上で、多数の小さなサービス(マイクロサービス)に分割されて動作しています。この分散された構造は柔軟でスケーラブルですが、問題が発生した際に「どこが原因か」を特定するのが非常に困難になります。例えば、ユーザーが「処理が遅い」と感じたとき、それがネットワークの問題なのか、特定のデータベースの問題なのか、あるいは外部APIのレスポンスが遅いのかを即座に判断するのは、従来の監視手法では限界があります。
Jaegerは、このオーケストレーション環境特有の課題を解決するために不可欠なツールとして位置づけられます。Jaegerが提供する「分散トレーシング」は、ログ収集(Logging)やメトリクス収集(Metrics)と並び、システムの状態を深く理解するための「可観測性の三本柱」の一つを構成します。
動作の基本:トレースとスパン
Jaegerの動作の基本は「トレース(Trace)」と「スパン(Span)」という概念に基づいています。
- トレース(Trace): ユーザーからのリクエストが最初から最後まで完了するまでの一連の流れ全体を指します。すべてのスパンは共通のトレースIDを共有します。
- スパン(Span): トレースを構成する個々の作業単位です。例えば、「Webサーバーでの認証処理」「在庫サービスの呼び出し」「データベースへのクエリ実行」などがそれぞれ一つのスパンとなります。スパンには、開始時刻、終了時刻、実行時間、タグなどの情報が含まれます。
アプリケーション内の各マイクロサービスは、処理を行う際にJaegerクライアントを通じてスパン情報を生成し、Jaegerコレクターに送信します。Jaegerはこれらのスパンを収集・保存し、関連付けられたスパンを時間軸に沿ってツリー構造(親子関係)で表示します。この可視化によって、運用担当者は遅延が発生しているトレースを一目で確認し、そのトレースの中で最も時間がかかっている特定のスパン(ボトルネック)を瞬時に特定できます。
主要コンポーネント
Jaegerシステムは、主に以下のコンポーネントで構成され、オーケストレーション環境の監視をサポートします。
- Jaeger Client: アプリケーションコードに組み込まれ、スパンを生成し、データをAgentに送信します。
- Agent: 各ホストまたはKubernetesのDaemonSetとしてデプロイされ、Clientからデータを受け取り、Collectorに転送する役割を担います。
- Collector: Agentから分散トレーシングデータを受け取り、データを検証、インデックス付けした後、永続的なストレージに書き込みます。
- Storage: 収集されたトレースデータを保存するバックエンドです。通常、大量の時系列データを扱うためにElasticsearchやCassandraなどが利用されます。
- Query: ユーザーインターフェース(UI)を提供し、保存されたトレースデータを検索・取得し、視覚的に表示します。
これらのコンポーネントが連携することで、動的に変化するKubernetes環境においても、リクエストごとの詳細な実行経路を追跡し、「監視とトラブルシューティング」の精度を高めることができるのです。
具体例・活用シーン
Jaegerが、オーケストレーション環境におけるトラブルシューティングをどのように助けるかを理解するために、国際的な宅配便の配送ルートに例えてみましょう。
宅配便の追跡システムとしてのJaeger
あなたが海外から重要な荷物(=ユーザーリクエスト)を注文したとします。この荷物は、複数の国や輸送手段(=マイクロサービス)を経由して届けられます。
- 荷物の旅(トレース): 荷物が注文されてから手元に届くまでのプロセス全体が「トレース」です。
- 各ステップ(スパン): 「A国の工場で梱包」「国際輸送」「日本の通関を通過」「国内の配送センターで仕分け」といった各作業が「スパン」です。
Jaegerがない状態では、荷物が遅延した場合、「どこで止まっているか」は分かりません。しかし、Jaegerを導入すると、すべてのステップに追跡番号(トレースID)が割り当てられ、各ステップでの所要時間(スパンの持続時間)が正確に記録されます。
トレース結果を分析した際、「日本の通関を通過する」というスパンに、通常の5倍の時間がかかっていることがすぐに分かれば、問題は「通関プロセス」にあると断定できます。もしこれがKubernetes環境であれば、このスパンが指し示すマイクロサービス(例:認証サービス)やデータベースへのクエリがボトルネックだと特定できるわけです。
このように、Jaegerは複雑なシステムの中で発生した遅延やエラーを、まるで探偵が事件の足取りを追うように明確に突き止め、運用担当者が迅速に適切なサービスに介入できるように支援します。これは、大規模なオーケストレーション環境の安定運用には欠かせない機能です。
資格試験向けチェックポイント
JaegerそのものがITパスポートや基本情報技術者試験で直接問われる可能性は低いですが、その背景にある概念は応用情報技術者試験や高度試験の分野で頻出します。特に、クラウド、マイクロサービス、そして「可観測性」の文脈で重要です。
- 分散トレーシング: Jaegerの最も重要な機能であり、マイクロサービス環境における処理の流れを追跡する技術用語として必ず押さえておくべきです。ログ収集、メトリクス収集と並び、可観測性の三本柱の一つであることを覚えておきましょう。
- 可観測性(Observability): システムの内部状態を、外部から出力されるデータ(トレース、ログ、メトリクス)から推測・理解する能力です。監視(Monitoring)との違いを明確に理解し、Jaegerが特にトレースを提供することで、この能力を高めることを結びつけてください。
- マイクロサービスアーキテクチャ: Jaegerは、このアーキテクチャ特有の「分散システムのデバッグの難しさ」を解決するために不可欠なツールとして認識されています。モノリシックなシステムと比較して、分散トレーシングがなぜ必要になるのか、その背景を理解しておくことが重要です。
- オーケストレーションとの関係: KubernetesやOpenShiftのようなコンテナ管理環境で発生する運用課題(動的な環境での監視、デバッグ)を解決するソリューション群の一つとして、Jaegerを位置づけてください。
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