レイテンシ
英語表記: Latency
概要
レイテンシ(Latency)とは、ネットワークを通じてデータ(情報の単位)を送信し始めてから、そのデータが相手に到達するまでに要する「遅延時間」のことです。これは、私たちが普段意識する通信の「速度」を決定づける非常に重要な要素であり、特に「通信速度と帯域」という文脈において、単にデータ容量(ビットやバイト)をどれだけ多く送れるか(帯域幅)だけでなく、そのデータがどれだけ迅速に目的地に届くかを示す指標となります。具体的には、データ転送の要求から応答が得られるまでの時間差として計測されることが多く、この時間が短いほど、ネットワークの応答性は高いと評価されます。
詳細解説
レイテンシは、私たちが設定した階層、すなわち「情報の単位(ビット, バイト, KiB, MiB)→ 通信速度と帯域 → ネットワーク帯域」という文脈の中で、帯域幅のパフォーマンスを体感的な速度に変換する鍵を握っています。
階層構造における重要性
まず、私たちは「情報の単位」としてビットやバイトを扱います。次に「通信速度と帯域」では、1秒間に何ビットのデータを送れるか(bps)に着目します。ネットワーク帯域が広ければ、一度に多くのデータ(大きなファイルなど)を転送できます。しかし、たとえ帯域幅が非常に広くても、レイテンシが大きいと、個々のデータパケットの到着が遅れてしまいます。
これは、道路に例えると分かりやすいかもしれません。帯域幅が「道路の車線数(一度に運べる量)」だとしたら、レイテンシは「信号の待ち時間や渋滞の発生頻度」に相当します。車線が多くても、信号待ちが長ければ目的地への到着時間は延びてしまいますよね。ITの世界では、この遅延が積み重なることで、ウェブページの表示がもたついたり、オンラインゲームで操作が遅れたりする原因となるのです。
レイテンシを構成する主要な要素
レイテンシは単一の原因で決まるわけではなく、いくつかの要因が組み合わさって発生します。これを理解することは、ネットワーク帯域の品質を議論する上で欠かせません。
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伝送遅延(Transmission Delay):
これは、物理的な距離に依存する遅延です。光ファイバーや銅線の中を信号が伝わるのにかかる時間です。光速は有限ですので、たとえば日本とアメリカ間の通信では、どうしても数十ミリ秒の遅延が発生してしまいます。この物理的な制約は、私たちがコントロールするのが最も難しい部分です。 -
処理遅延(Processing Delay):
ルーターやスイッチといったネットワーク機器が、受信したデータパケットのヘッダー情報を読み取り、次にどこへ転送すべきかを判断するのにかかる時間です。高性能な機器ほどこの時間は短くなりますが、機器の負荷が高まると処理に時間がかかり、遅延が増大します。 -
キューイング遅延(Queuing Delay):
最も変動しやすい遅延要因です。ネットワーク機器が処理能力を超える大量のデータを受信した場合、それらのパケットは一時的にキュー(待ち行列)に格納されます。この待ち行列で待機する時間がキューイング遅延です。ネットワークが混雑している状況、すなわち「ネットワーク帯域」が限界に近づいている状況で顕著に増加します。
これらの遅延時間の合計が、私たちが体感するレイテンシとなるわけです。特に、通信の往復にかかる時間(Round Trip Time: RTT)を計測することが一般的であり、このRTTの値が、ネットワークの応答性を測る際の重要な指標となります。応答性が高いということは、私たちが送ったデータ(情報の単位)が迅速に処理され、結果が戻ってくることを意味します。
具体例・活用シーン
1. オンラインゲームにおける致命的な遅延
レイテンシが最もシビアに影響する分野の一つが、リアルタイム性が要求されるオンラインゲームです。
例えば、eスポーツで対戦型シューティングゲームを楽しんでいると想像してみてください。あなたがトリガーを引く(データ送信)と同時に、その情報がサーバーを経由して相手に届き、相手の画面に反映される必要があります。もしレイテンシが200ミリ秒(0.2秒)あった場合、あなたが発射した情報が相手に届くまでに0.2秒かかります。このわずかな時間の差が、勝敗を決定づけてしまいます。プレイヤーとしては、帯域幅が広くても(高画質なデータを送れても)、レイテンシが高いと「ラグい」と感じ、快適にプレイできないのです。
2. ビデオ会議と音声のズレ
ビジネスで国際的なビデオ会議を行う際もレイテンシは重要です。レイテンシが大きいと、映像と音声がずれたり、会話のキャッチボールに不自然な間が生じたりします。参加者が互いに遠慮して話すタイミングを見計らう必要が出てしまい、会議の効率が著しく低下します。高品質な通信(広いネットワーク帯域)を提供するだけでなく、低レイテンシを維持することが、円滑なコミュニケーションの前提条件となります。
3. アナロジー:高速道路と料金所の関係
レイテンシとネットワーク帯域の関係を理解するための、私のお気に入りの比喩をご紹介します。
ある工場(データ送信元)から、遠く離れた店舗(データ受信先)へ製品(データ)を運ぶ状況を想像してください。
- ネットワーク帯域(帯域幅):製品を運ぶための高速道路の車線数です。車線が多ければ、一度に大量のトラック(データパケット)を走らせることができます。
- レイテンシ:製品が工場を出てから、最初の料金所(ルーター)に到着し、通過するまでにかかる時間、そして次の料金所までの間に存在する信号待ちの時間です。
もし高速道路(帯域幅)が片側1車線(狭い)で、料金所(ルーター)での処理が速い(低レイテンシ)場合、製品の流れはスムーズですが、総量は限られます。
逆に、高速道路が片側10車線(広い帯域幅)でも、すべてのトラックが料金所(ルーター)で渋滞したり、信号待ち(キューイング遅延)が長かったりすると、結局、製品が店舗に届くまでの時間は長くなります。
つまり、大量のデータ(情報の単位)を効率的に、そして迅速に転送するためには、広い帯域幅と低いレイテンシの両方が不可欠である、ということをこの比喩は教えてくれます。どちらか一方が欠けても、体感的な通信速度は向上しないのです。
資格試験向けチェックポイント
IT関連の資格試験、特にITパスポートや基本情報技術者試験では、「通信速度と帯域」のセクションにおいて、レイテンシは非常に頻出するテーマです。
1. スループットとの違いの理解(最重要)
- 出題パターン: レイテンシとスループット(実効速度)の違いを問う問題が頻出します。
- 対策:
- スループット: 単位時間あたりに実際に転送できたデータ量(ビットやバイト)。「どれだけ多く」送れたか。
- レイテンシ: 遅延時間。「どれだけ早く」届いたか。
- 広帯域で低レイテンシであるほど、高いスループットが期待できる、という関係性を理解しておきましょう。
2. ネットワークの品質指標としての位置づけ
- ITパスポート: レイテンシが「遅延時間」を指す基本的な定義と、それがネットワークの体感速度に影響を与えるという事実を問われます。
- 基本情報技術者/応用情報技術者:
- レイテンシは、ジッタ(遅延の揺らぎ)やパケットロスと並び、ネットワークサービス品質(QoS: Quality of Service)を評価する重要な指標であることを理解してください。
- 特に、応用情報技術者試験では、VoIP(IP電話)やストリーミングサービスなど、リアルタイム通信におけるレイテンシの許容範囲に関する知識が問われることがあります。
3. 測定方法の基本
- 対策: レイテンシの測定には、Pingコマンドが一般的に用いられることを覚えておきましょう。Pingは、ICMP(Internet Control Message Protocol)を利用して、データパケットの往復時間(RTT)を計測します。このRTTこそが、ネットワークのレイテンシを示す代表的な値です。
4. 階層との関連付けの確認
- レイテンシは、物理層からアプリケーション層まで、すべての層で発生する可能性がある遅延の総和であることを意識してください。特に、ルーターなどの中継機器での処理(ネットワーク帯域内での処理)が大きな影響を与えるという点を覚えておくと、応用問題にも対応しやすくなります。
関連用語
私たちが現在議論している「情報の単位(ビット, バイト, KiB, MiB) → 通信速度と帯域 → ネットワーク帯域」という文脈でレイテンシを深く理解するためには、他にもいくつかの重要な関連用語があります。
- スループット (Throughput): 実際に単位時間あたりに処理されたデータ量。レイテンシが低いほどスループットは向上します。
- 帯域幅 (Bandwidth): ネットワークが理論上、単位時間あたりに転送できるデータ容量(ビット/秒)。レイテンシとは異なり、容量そのものを指します。
- ジッタ (Jitter): 遅延時間のばらつきのこと。レイテンシが低くても、ジッタが大きいと、音声や映像が途切れる原因となります。
- QoS (Quality of Service): ネットワークの通信品質を保証するための技術や仕組み。低レイテンシの維持はQoSの主要な目的の一つです。
関連用語の情報不足
このIT glossaryのプロジェクトにおいて、関連用語に関する詳細な定義や、それぞれの用語がレイテンシとどのように数値的に関連し合うかを示す具体的なデータが不足しています。特に、ジッタやパケットロスといった、レイテンシと密接に関連する品質指標についても、より詳細な項目を作成し、相互参照できるようにすべきです。これにより、読者は「通信速度と帯域」というカテゴリ全体をより包括的に理解できるようになるでしょう。