NATS(ナッツ)

NATS(ナッツ)

NATS(ナッツ)

英語表記: NATS

概要

NATSは、クラウドネイティブ環境や分散システムにおいて、極めて高いパフォーマンスとシンプルな操作性を実現するために設計されたオープンソースのメッセージングシステムです。並行・並列処理(マルチスレッド, GPU並列)の文脈では、多数の独立したプロセスやスレッドが効率的かつ非同期に連携するための「メッセージキュー」または「メッセージバス」として機能します。特に、サービス間の複雑な依存関係を排除し、システム全体を疎結合な状態に保つことで、並列実行時のスケーラビリティと可用性を劇的に向上させるための重要なインフラストラクチャを提供しています。

詳細解説

1. 並行処理におけるNATSの役割

並行処理システムを構築する際、複数の独立したコンポーネント(マイクロサービス、アクター、スレッドなど)が互いに連携する必要がありますが、同期的な通信(直接的なAPIコールなど)を行うと、一つのコンポーネントの遅延がシステム全体を停止させるボトルネックとなりがちです。

NATSは、この問題を解決するために、メッセージ駆動型アーキテクチャの中核を担います。並行して動作するコンポーネントは、相手の場所や状態を知ることなく、NATSサーバーを介してメッセージを送信(Publish)し、受信(Subscribe)します。これにより、通信が非同期化され、各コンポーネントは自分のタスクを独立して高速に実行し続けることができるため、全体として高い並列処理能力を発揮できます。

2. コア機能とメッセージングパターン

NATSは、主に以下の3つの基本的なメッセージングパターンを提供しており、これらが並行システムの柔軟な設計を可能にしています。

(1) Publish/Subscribe (Pub/Sub)

これがNATSの最も基本的な機能であり、メッセージキューの文脈で非常に重要です。
発行者(Publisher)は特定の「Subject(主題)」に対してメッセージを送信し、そのSubjectを購読している全ての受信者(Subscriber)がそのメッセージを受け取ります。これは、多くの並行タスクに対して同時に情報をブロードキャストする際に非常に有効です。例えば、1つのデータ更新イベントを、同時に動作しているログ記録サービス、キャッシュ更新サービス、通知サービスなどに並列で伝えることができます。

(2) Request/Reply

これは同期的な通信に近いパターンですが、NATSを介することで疎結合を保ちます。リクエストを送信したクライアントは、対応する応答が返ってくるのを待ちます。これは、並行処理の中で特定のサービスに対して処理を依頼し、その結果を待つ必要がある場合に利用されます。

(3) Queue Group (負荷分散)

複数のサブスクライバーを「キューグループ」として設定することで、特定のSubjectに届いたメッセージを、そのグループ内のサブスクライバー間で均等に分散(ロードバランシング)して処理させることができます。これは、膨大な量の並行タスク(例えば、画像処理リクエスト)を、複数のワーカースレッドやプロセスで分担して処理する際に不可欠な機能です。

3. NATS CoreとJetStreamによる耐久性の確保

NATSは元来、インメモリで動作する「NATS Core」として知られており、超高速でメッセージを転送しますが、メッセージの永続性(耐久性)は提供していませんでした。これは、リアルタイム性が重視され、メッセージが失われても問題ない、あるいはメッセージの鮮度が最優先される並行処理タスクに適していました。

しかし、より複雑なメッセージ駆動型システム(特に金融取引や重要なデータ処理)の要求に応えるため、「NATS JetStream」が導入されました。JetStreamは、NATSに耐久性のあるストリーミング機能を追加し、メッセージをディスクに永続化(保存)することを可能にしました。これにより、並行処理中のコンポーネントが一時的にダウンしてもメッセージが失われることがなくなり、より堅牢で信頼性の高い非同期ワークフローを構築できるようになりました。

4. アクターモデルとの関係

NATSは、並行処理の設計パターンであるアクターモデル(Actor Model)を具現化するのに非常に適しています。アクターモデルでは、すべての計算主体(アクター)は、メッセージを介してのみ通信し、状態を共有しません。NATSは、このアクター間のメッセージ交換を担う「郵便局」のような役割を果たします。これにより、並行処理で最も難しいとされる「共有メモリへの排他的アクセス」や「ロック/デッドロック」の問題を回避し、システムの設計とデバッグを大幅に簡素化できます。

具体例・活用シーン

NATSは、その高速性とシンプルなアーキテクチャから、特に応答速度とスケーラビリティが求められる並行システムで広く利用されています。

  • マイクロサービス間通信:
    多数のマイクロサービスが並行して動作する大規模システムにおいて、サービス間のAPIコールをNATSのPub/Subに置き換えることで、特定のサービス障害が他のサービスに波及することを防ぎます(カスケード障害の防止)。
  • IoTデバイスのデータ収集:
    数万〜数十万台のIoTデバイスが同時にデータを送信する際、NATSサーバーがその膨大なメッセージストリームを高速で受け付け、バックエンドの処理エンジンに並列でルーティングします。
  • リアルタイム金融取引:
    株価や為替レートの変動など、リアルタイムで発生するイベントを、同時に動作するトレーディングエンジンやリスク管理システムへ遅延なく配信するために使用されます。

アナロジー:空港のゲート変更アナウンス

NATSが並行処理の中でどのように機能するかを理解するために、空港のゲート変更アナウンスを想像してみてください。

【NATSサーバー=管制塔(中央アナウンスシステム)】

並行処理における個々のサービスや旅客は、常に互いに連絡を取り合う必要はありません。代わりに、全ての情報を一元的に扱う管制塔(NATSサーバー)が存在します。

【Publisher=航空会社職員】

航空会社職員(Publisher)は、特定のフライト(Subject)に関する情報(メッセージ)を管制塔に送信します。「JL123便のゲートがA10からB25に変更されました」というメッセージをアナウンスシステムに入力します。

【Subscriber=特定のフライトの乗客】

空港内には、様々なフライトの乗客(Subscriber)が並行して移動しています。彼らは他のフライトの情報には興味がありません。彼らは自分が乗るフライト「JL123」というSubjectを購読しているため、管制塔がアナウンスした瞬間に、その情報だけを受け取ります。

この仕組みのおかげで、航空会社職員は誰に情報が必要かを知る必要がなく、乗客も自分で情報を探しに行く必要がありません。情報は自動的に必要な場所に並行して配信されます。もし乗客が100人いれば、その100人に対して同時に、かつ独立して情報が届くため、システム全体として非常に効率的でスケーラブルな情報伝達(並行処理)が実現できるのです。これは、同期的な通信(一人ひとりに電話をかける行為)と比較して、圧倒的に高い処理能力を生み出します。

資格試験向けチェックポイント

NATS自体が直接出題されることは稀ですが、その基盤となる概念は、ITパスポート、基本情報技術者試験、応用情報技術者試験のいずれにおいても、分散システム、並行処理、およびアーキテクチャ設計の文脈で重要となります。

  • 疎結合(デカップリング)の実現手段:
    NATSはサービス間の依存関係を排除し、疎結合を実現する具体的な技術として認識してください。疎結合は、システムの変更容易性やスケーラビリティを向上させる主要因です。
  • 非同期通信とボトルネック解消:
    メッセージキューを利用した「非同期通信」が、並行処理においてI/O待ちやリソース競合によるボトルネックをどのように解消するのか、そのメリットを説明できるようにしておく必要があります。
  • Pub/Subモデルの理解:
    メッセージキューの主要パターンであるPublish/Subscribeモデル(一対多の通信)の仕組みを理解し、Point-to-Pointキュー(一対一の通信)との違いを明確に区別できるようにしましょう。NATSは主にPub/Subに特化しています。
  • アクターモデルとの関連性:
    メッセージ駆動型とアクターモデルの概念が出題された場合、NATSがそのメッセージ交換のインフラストラクチャを提供する具体的な例として結びつけて理解しておくと、知識の幅が広がります。
  • メッセージバス/メッセージブローカー:
    NATSは、分散環境におけるメッセージの仲介役である「メッセージブローカー」または「メッセージバス」の一種であると認識してください。これが、並行して動作する多数のコンポーネント間の通信をルーティングする役割を担います。

関連用語

  • 情報不足

(関連用語として、NATSと同様にメッセージングシステムとして知られるKafkaやRabbitMQ、メッセージ駆動型アーキテクチャの基盤であるアクターモデル、そしてNATSが特に活用されるマイクロサービスなどの用語を追記すると、学習の助けになります。)

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この記事を書いた人

両親の影響を受け、幼少期からロボットやエンジニアリングに親しみ、国公立大学で電気系の修士号を取得。現在はITエンジニアとして、開発から設計まで幅広く活躍している。

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