NUMA バランシング(ヌマバランシング)
英語表記: NUMA Balancing
概要
NUMA バランシングとは、高性能なマルチプロセッササーバが採用するNUMA(Non-Uniform Memory Access:非均一メモリアクセス)アーキテクチャにおいて、サーバOS(Linux ServerやWindows Server)のカーネルが自動的に実行する最適化機能です。
これは、プロセスや使用中のメモリページを適切なCPUノードに動的に再配置することで、メモリへのアクセス速度(レイテンシ)の差を解消し、システム全体のパフォーマンスを最大化することを目的としています。この機能の有効/無効や動作の閾値は、サーバチューニングとパフォーマンスを制御するためのカーネルパラメータとして設定されます。
詳細解説
NUMA バランシングを理解するには、まずNUMAアーキテクチャの背景を把握しておく必要があります。現代の高性能サーバは、CPUコアの増加に伴い、単一のメモリコントローラで全てのメモリを管理することが難しくなっています。そこで、CPUグループ(ノード)ごとに専用のメモリを割り当てるNUMA構造が採用されました。
NUMAアーキテクチャとチューニングの課題
NUMA環境では、CPUが「自分のノード」に接続されたメモリ(ローカルメモリ)にアクセスするのは非常に高速です。しかし、別のCPUノードに接続されたメモリ(リモートメモリ)にアクセスする場合、ノード間接続バスを経由するため、アクセス時間が長くなります。この時間差、つまり「メモリレイテンシ」が、大規模なアプリケーションの処理速度低下の主要因となることがあるのです。
サーバチューニングとパフォーマンスの観点から見ると、このレイテンシをいかに隠蔽または解消するかが非常に重要な課題となります。
NUMA バランシングの目的と動作原理
NUMA バランシングは、このレイテンシ問題をカーネルレベルで自動的に解決するための機構です。
- 目的: プロセスが常に最も近いローカルメモリを使用する状態(メモリの局所性)を確保し、リモートメモリアクセスの発生を最小限に抑えることです。
- 動作原理:
- 監視: カーネルは、実行中のプロセスが、どのNUMAノードのメモリをどれくらいの頻度で利用しているかを継続的に監視しています。
- 検知: もし、あるプロセスが自分の実行ノードから遠いリモートメモリに頻繁にアクセスしている状況(レイテンシが発生している状況)を検知すると、自動的に最適化処理を開始します。
- マイグレーション(移動): 最適化として、カーネルは以下のいずれか、または両方を実施します。
- プロセス・マイグレーション: そのプロセス自体を、頻繁に利用しているメモリがあるNUMAノードのCPUへ移動させます。
- ページ・マイグレーション: プロセスが頻繁に利用するメモリの塊(ページ)を、プロセスが実行されているCPUノードのローカルメモリ領域へ物理的に移動させます。
カーネルパラメータとしての役割
この自動的な監視と移動(マイグレーション)の仕組みは、サーバOSのカーネルパラメータによって制御されます。例えば、Linuxではkernel.numa_balancingというパラメータがあり、これを1に設定することでバランシング機能が有効化されます。
私たちがサーバチューニングを行う際、まずデフォルトでこの機能が有効になっているかを確認します。通常、多くのワークロードで自動バランシングはパフォーマンス向上に寄与しますが、バランシング処理自体にもCPUリソースを消費するという性質があります。つまり、非常にI/O負荷が高い、またはメモリが頻繁に入れ替わるような特殊な環境では、この自動処理がオーバーヘッドとなり、かえって性能を悪化させる可能性もあるのです。
そのため、熟練の技術者は、ワークロードに応じてこのカーネルパラメータを操作し、自動バランシングを無効化(0に設定)したり、手動でプロセスの配置を固定するなどの高度なサーバチューニングを行うことがあります。これは、NUMA バランシングが単なる機能ではなく、パフォーマンスを左右する重要な設定項目であることを示しています。
具体例・活用シーン
NUMA バランシングの働きを、初心者の方にも分かりやすく理解していただくために、身近な例で考えてみましょう。
比喩:巨大なデータセンターにおける作業員の効率化
あなたの会社が、非常に大きなデータセンター(高性能サーバ)を運用していると想像してください。このデータセンターは、複数のフロア(NUMAノード)に分かれており、各フロアには専用のファイルキャビネット(ローカルメモリ)があります。
- 非効率な状態: ある作業員(プロセス)が、自分のいる1階のデスクで作業しているにもかかわらず、必要な書類(データ)のほとんどが4階のキャビネットに保管されている状態(リモートメモリアクセスが多発)です。作業員は書類を取りに行くたびにエレベーターで4階まで往復しなければならず、作業効率は非常に悪くなります。
- NUMA バランシングの介入: データセンターの管理AI(カーネル)は、この非効率な動きを自動で検知します。
- 作業員の移動: 管理AIは、「この作業員は4階の書類ばかり使うのだから」と判断し、作業員ごと4階のデスクに移動させます(プロセス・マイグレーション)。
- 書類の移動: または、「この作業員が今すぐ必要な書類だけを、1階のキャビネットにコピーして持ってくる」ように指示します(ページ・マイグレーション)。
NUMA バランシングは、このように物理的な距離によるアクセス遅延を、作業員や書類を「最も近い場所」に配置し直すことで解消し、サーバチューニングの目標である処理速度の向上を実現しているのです。
活用シーン
- ハイエンドデータベースシステム: 非常に大きなメモリ領域(テラバイト級)を持つインメモリデータベースを運用する場合、データとCPUの配置がズレると性能劣化が顕著になります。NUMA バランシングにより、データアクセスが最適化され、ミリ秒単位の応答速度の改善が見込めます。
- 科学技術計算: 並列度の高い計算ジョブを実行する際、データが適切に配置されていないと、ノード間の通信がボトルネックになります。バランシングを有効にすることで、計算リソースの利用効率が向上します。
- バランシングの無効化を検討する場合: 非常に短時間で完了するタスクが大量に発生する環境では、カーネルが自動バランシングの判断を下すためのオーバーヘッドが無視できなくなることがあります。この場合、カーネルパラメータでバランシングを無効化し、アプリケーション側でメモリ配置を厳密に制御するアプローチが選択されることもあります。
資格試験向けチェックポイント
NUMA バランシングは、特に応用情報技術者試験や高度試験の「計算機アーキテクチャ」「システム性能評価」の分野で重要となります。サーバOSのサーバチューニングとパフォーマンスに関する知識として、以下の点を確実に押さえておきましょう。
- NUMAの定義: NUMAは「非均一メモリアクセス」の略であり、メモリへのアクセス速度がノードによって異なる構造であることを理解してください。均一アクセス(UMA)との対比で問われることが多いです。
- 目的と効果:
