8 進表記
英語表記: Octal Notation
概要
8進表記(Octal Notation)とは、数を表現するための方法の一つで、「8」を基数(ベース)とする記数法のことです。私たちが普段使用している10進数では0から9までの10種類の数字を使いますが、8進数では0から7までの8種類の数字のみを用いて数を表現します。この表記法は、特にコンピュータの基本となる二進数(Binary)を、人間にとって読みやすく、よりコンパクトに表現するための中継ぎ役として、基数変換の分野で非常に重要な役割を果たしてきました。この「表記法」があるおかげで、膨大な桁数になりがちな二進数の塊を、効率的に扱うことができるのです。
詳細解説
目的と位置づけ:なぜ8進表記が必要なのか
私たちが今学んでいる「基数変換(二進数, 十六進数)→ 基本概念と表記 → 表記法」という文脈において、8進表記の存在意義は、二進数との親和性の高さに尽きます。
コンピュータはすべての情報を「0」と「1」で表す二進数で処理します。しかし、例えば「1101011010110110」といった長大な二進数の羅列を人間が読んで理解するのは、非常に困難で間違いやすい作業です。そこで、この長い二進数を短い桁数で表現するために、8進表記や16進表記(十六進表記)が利用されます。これらは、まさに人間とコンピュータの間の通訳者の役割を果たしているのです。
動作原理:3ビットのまとまり
8進表記の最大の特長は、基数である8が2の3乗($8 = 2^3$)である点です。これは、二進数の3桁が、必ず8進数の1桁に対応するということを意味します。
| 8進数 | 10進数 | 2進数 (3桁) |
| :—: | :—: | :———: |
| 0 | 0 | 000 |
| 1 | 1 | 001 |
| 2 | 2 | 010 |
| 3 | 3 | 011 |
| 4 | 4 | 100 |
| 5 | 5 | 101 |
| 6 | 6 | 110 |
| 7 | 7 | 111 |
この仕組みのおかげで、二進数から8進数への変換、またはその逆の変換は、非常に簡単に行えます。複雑な割り算や掛け算を必要とせず、ただ3桁ずつ区切って読み替えるだけで済むのです。これは、基数変換の手順を大幅に簡略化する「表記法」として、非常に画期的な方法でした。
歴史的背景と現代の利用
かつて、コンピュータの黎明期(特にDEC社のPDPシリーズなど)においては、8進表記は非常に広く使われていました。なぜなら、初期のコンピュータのワードサイズ(一度に処理できるデータのまとまり)が3の倍数(例:12ビット、36ビット)になっていることが多かったためです。
現代のIT分野、特に一般的なプログラミングやシステム開発では、ワードサイズが4の倍数(8ビット、16ビット、32ビット、64ビット)が主流となったため、$16 = 2^4$の関係を持つ十六進表記(Hexadecimal Notation)の方が、より広く利用されています。しかし、8進表記は現在でも特定の分野で利用されています。最も身近な例は、UNIX/Linuxシステムのファイルアクセス権(パーミッション)の設定です。例えば、「755」という表記は、所有者(User)、グループ(Group)、その他(Other)に対する読み取り・書き込み・実行権限を、8進数で表現しています。これは、8進数が持つコンパクトさと直感性が、権限管理に最適であるためです。
このように、8進表記は単なる古い技術ではなく、特定の情報を簡潔に表現するための優れた「表記法」として、今もなお、その役割を担い続けているのです。
具体例・活用シーン
1. 二進数から8進数への変換
8進表記の便利さを実感するためには、二進数からの変換を試みるのが一番です。
- 二進数: $101110010_2$
- 手順: 右端から3桁ずつ区切ります。
- $(101)(110)(010)$
- 読み替え:
- $101$ は $5$
- $110$ は $6$
- $010$ は $2$
- 8進数: $562_8$
このように、長い二進数の羅列が一瞬で3桁の8進数に置き換えられます。基数変換の基本概念を理解する上で、この「3ビット=1桁」の関係は非常に重要です。
2. アナロジー:「三つ編みの法則」
初心者の方が8進表記の役割を理解するためのアナロジーをご紹介します。
長い二進数の列を、一本一本が非常に細くて長い「糸」だと想像してください。この糸をそのまま扱うのは、非常に面倒で絡まりやすい作業ですよね。
ここで8進表記は、「三つ編み機」の役割を果たします。
- 3本の糸(3ビット)を集めます。
- それを一つの太い三つ編み(8進数の1桁)にまとめます。
- この太い三つ編みは、元の3本の糸の情報(0から7の状態)をすべて保持しつつ、見た目はたった一本の、扱いやすい「束」になります。
二進数を8進数に変換する作業は、まさにこの「三つ編み」を作る作業と同じです。膨大な情報量を失うことなく、人間が管理しやすいサイズにパッケージングしてくれる、非常にスマートな「表記法」だと言えるでしょう。
3. UNIXパーミッションの表記
先述の通り、UNIX/Linux環境でのファイル権限設定は、8進表記が最も現役で活用されている例の一つです。
| 権限 | 8進数値 |
| :—: | :—: |
| 実行 (Execute) | 1 |
| 書き込み (Write) | 2 |
| 読み取り (Read) | 4 |
これらの値を合計して権限を表現します。例えば、フル権限(読み書き実行)は $4+2+1=7$ となり、有名な「755」は以下の権限を示します。
- 最初の「7」:所有者(フル権限)
- 次の「5」:グループ(読み取り4 + 実行1 = 5)
- 最後の「5」:その他(読み取り4 + 実行1 = 5)
この例からも、8進表記が単に数を表すだけでなく、特定の情報や設定値を簡潔にコード化するための強力な「表記法」であることがわかります。
資格試験向けチェックポイント
IT系の資格試験(ITパスポート、基本情報技術者、応用情報技術者)において、8進表記は基数変換の基本問題として頻出します。特に以下の点を押さえておきましょう。
- 基数の定義と範囲: 8進数は基数8であり、使用する数字は0から7までであることを確実に覚えてください。9やAなどの数字は絶対に使用しません。
- 二進数との即時変換: 8進数1桁が二進数3桁に対応する ($8 = 2^3$) という関係性を暗記し、瞬時に変換できる練習が必要です。特に「5は101」「7は111」など、頻出する組み合わせは反射的に答えられるようにしておくと、試験時間を大幅に節約できます。
- 基数変換の比較: 8進表記は3ビット、16進表記は4ビットに対応します。試験では、この違いを利用して、どちらの表記法がより効率的か、あるいは特定のワードサイズ(例:16ビット)を表現するのに何桁必要か、といった比較問題が出題されることがあります。
- UNIXパーミッションの知識: 8進数がUNIXのファイル権限の設定に使われているという知識は、特に基本情報技術者試験や応用情報技術者試験のセキュリティやOS分野で問われることがあります。「rwx」と「7」の関係をセットで記憶しておきましょう。
- 重み付け記数法の理解: 8進表記も、10進数や2進数と同様に「重み付け記数法」に基づいています。例えば、$562_8$ は $5 \times 8^2 + 6 \times 8^1 + 2 \times 8^0$ と計算できることを理解しておくと、10進数への変換問題に対応できます。
関連用語
- 二進表記 (Binary Notation): コンピュータの基礎となる基数2の表記法です。8進表記や16進表記は、この二進表記を人間が扱いやすくするための「表記法」として存在します。
- 十六進表記 (Hexadecimal Notation): 基数16の表記法で、0~9とA~Fを使用します。現代のコンピュータでは、8進表記よりも広く使われており、4ビット($16 = 2^4$)を1桁で表現します。
- 基数 (Radix / Base): 記数法において、桁が一つ上がるごとに何倍になるかを示す値です。8進表記では8が基数となります。
- 重み付け記数法 (Positional Notation): 桁の位置によってその値(重み)が変わる記数法のことです。8進表記もこの一種です。
- 情報不足
【情報不足について】
関連用語として、8進表記が特に使われていた歴史的なコンピュータアーキテクチャや、特定のプログラミング言語における8進数のリテラル表記法(例: C言語の 0
から始まる数値)など、具体的な技術的背景に関する情報が不足しています。これらの情報は、8進表記が「表記法」としてどのように実装されてきたかを理解する上で有用です。