ページウォーク

ページウォーク

ページウォーク

英語表記: Page Walk

概要

ページウォークとは、仮想メモリシステムにおいて、CPUが要求した仮想アドレスを対応する物理アドレスに変換する際、その変換情報がTLB(Translation Lookaside Buffer)に存在しなかった場合(TLBミス)に発生する、ハードウェアによる自動的な処理プロセスです。これは、主メモリ(DRAM)上に格納されている階層化されたページテーブルを順に辿り、目的のアドレス変換エントリを見つけ出すために行われます。ページウォークは、TLBによる高速化が失敗した際の「確実なアドレス変換」を実現するためのフォールバック機構であり、「仮想メモリとアドレッシング」を実現する上で欠かせない裏側の仕組みと言えます。

詳細解説

ページウォークの必要性とコンポーネント

私たちが扱うコンピュータのOSは、通常「仮想メモリ」の仕組みを利用しています。これは、各プログラム(プロセス)に対して、物理メモリの容量に関わらず独立した広大なアドレス空間を提供するための技術です。しかし、実際にデータが格納されているのは物理メモリ(DRAM)ですから、CPUがアクセスするためには、仮想アドレスを物理アドレスに変換する作業(アドレッシング)が必須となります。

この変換作業を担うのがMMU(Memory Management Unit)という専用のハードウェアです。MMUはまず、超高速なキャッシュであるTLBを参照して高速変換を試みます。しかし、TLBの容量は限られているため、変換情報が見つからない(TLBミス)ことが起こります。

ここで登場するのがページウォークです。

動作原理:多段ページテーブルのトラバース

現代のオペレーティングシステムでは、メモリ使用効率を高めるために「多段ページテーブル」という階層構造が一般的に利用されています。この階層構造が、ページウォークの処理を複雑にしています。

ページウォークの処理は、TLBミスが発生した瞬間にMMUによって自動的に開始されます。この処理は、ソフトウェア(OS)の介入なしに、完全にハードウェアレベルで実行される点が非常に重要です。もしソフトウェアで実行すると、膨大なオーバーヘッドが発生し、システムが使い物にならなくなってしまうでしょう。

  1. 起点(ルート)の特定: MMUは、CPUの特定のレジスタ(通常はページテーブルベースレジスタなどと呼ばれます)から、ページテーブルの最上位階層(ルート)が物理メモリ上のどこにあるかのアドレスを取得します。
  2. 階層のトラバース: MMUは仮想アドレスをいくつかのフィールドに分解し、そのうちの最初のフィールドを使って第1階層のページテーブルエントリを探します。このエントリには、次の階層(第2階層)のページテーブルが物理メモリ上のどこにあるかの情報が格納されています。
  3. DRAMアクセス: MMUは物理メモリ(DRAM)にアクセスして第2階層のアドレスを取得し、さらに第3階層、第4階層と、必要な段数分だけDRAMへのアクセスを繰り返します。このDRAMへのアクセスが、ページウォークが遅い主要因です。
  4. 最終アドレスの取得とTLBへの登録: 最終階層まで辿り着くと、目的の仮想ページに対応する物理フレームのアドレス(物理アドレス)が確定します。MMUはこの変換情報をCPUに返し、同時に将来の高速利用のためにTLBにもこの情報を書き込みます(TLBフィル)。

このように、ページウォークは「仮想メモリとアドレッシング」を確実に行うための手段ですが、主メモリへの複数回のアクセスを伴うため、TLBヒットに比べると圧倒的に時間がかかります。この遅延こそが、「TLB と高速化」の文脈でページウォークの発生をいかに減らすかが重要視される理由なのです。性能を追求する上では、ページウォークは避けるべき処理だ、という認識を持つことが大切ですね。

具体例・活用シーン

銀行の住所録を辿る比喩

ページウォークの動作は、企業や銀行が顧客の住所を管理している非常に大きな階層化されたデータベースをイメージすると理解しやすいです。

あなたが銀行の窓口担当者(MMU)だとします。顧客Aさん(仮想アドレス)の物理的な住所(物理アドレス)を知りたい状況です。

  1. TLB(手元のメモ帳): 窓口担当者はまず、最近対応した顧客の住所を書き留めた「手元のメモ帳」(TLB)を高速で確認します。もしそこにAさんの住所があれば、すぐに確認完了です(TLBヒット)。
  2. TLBミス(メモ帳にない): 残念ながら、Aさんの情報がメモ帳にはありませんでした(TLBミス)。
  3. ページウォーク開始(階層化された住所録の検索): 担当者は、本部の巨大な「階層化された住所録」(ページテーブル)を参照しに行きます。この住所録は効率化のため、以下のように分かれています。
    • 第1階層(都道府県): まず、住所録の「都道府県」のインデックス(第1レベルのページテーブル)を探します。
    • 第2階層(市区町村): そこで見つけた情報から、「市区町村」のインデックス(第2レベル)がどこにあるかを確認し、その場所まで移動します。
    • 第3階層(町名・番地): さらに「町名・番地」のインデックス(第3レベル)を辿ります。
  4. 最終確認: このように何段階も書類棚やデータベースを辿って(ページウォーク)、ようやくAさんの正確な物理的な住所(物理アドレス)が記載された最終エントリを見つけ出すことができます。

この「都道府県→市区町村→町名」と、物理的な場所を何度も移動して参照する行為が、MMUがDRAMへ何度もアクセスするページウォークそのものです。手元のメモ帳(TLB)で済むなら一瞬ですが、本部に行って何段階も辿る作業は非常に手間と時間がかかりますよね。この手間をいかに減らすかが、システム設計における重要な課題なのです。

活用シーン:大規模システムとTLBの最適化

ページウォークの発生は性能劣化に直結するため、システム管理者やCPU設計者は常にTLBの効率化を追求します。

  • 大規模データベース処理: データベースが大量のメモリにアクセスする際、多くの異なるメモリアドレスが参照されます。TLBの容量を超えてしまうと、頻繁にページウォークが発生し、I/O速度が速くてもCPUがアドレス変換待ちでボトルネックになることがあります。
  • 仮想化環境: 複数のゲストOSが動作する仮想化環境では、アドレス変換が二重(ゲストOSの仮想アドレス→ゲストOSの物理アドレス→ホストOSの物理アドレス)になるため、ページウォークの負荷がさらに増大しがちです。この問題を解決するために、CPUベンダーは拡張ページテーブル(EPTやRVIなど)といった技術を導入し、ページウォークの効率化を図っています。これは、「メモリ階層」の効率化において非常に先進的な取り組みと言えるでしょう。

資格試験向けチェックポイント

IT系の資格試験、特に基本情報技術者試験や応用情報技術者試験では、「TLB と高速化」のテーマでページウォークが問われることが多々あります。ページウォークを単独で覚えるのではなく、必ずTLBやMMUとの関連性の中で理解してください。

  • 発生条件の理解: ページウォークは「TLBミス」が発生したときに、MMUによって自動的に実行される処理である、という点を確実に押さえてください。TLBヒットした場合はページウォークは発生しません。
  • 性能への影響: ページウォークは、主メモリ(DRAM)への複数回のアクセスを必要とするため、処理速度が非常に遅い(レイテンシが大きい)です。したがって、ページウォークの頻度が増えると、システムパフォーマンスは著しく低下します。この「遅延」が最大のポイントです。
  • MMUの役割: アドレス変換(TLB参照とページウォークを含む)は、MMUというハードウェアが担当します。CPUが直接ページテーブルを辿るわけではない、という点も重要です。
  • 多段ページテーブルの理解: ページウォークは、メモリの消費量を抑えるために採用される「多段ページテーブル」の構造を物理的に辿る行為です。多段構造の段数が多ければ多いほど、ページウォークの回数が増え、時間がかかるというトレードオフを理解しましょう。
  • 文脈の確認: この概念は、メモリ階層全体の中で、仮想メモリを成立させるための仕組みであり、特にTLBによる高速化がうまくいかなかった場合の「代替手段」として位置づけられていることを認識しましょう。

関連用語

ページウォークは、以下の用語と密接に関連しており、これらをセットで理解することが、仮想メモリの仕組みを把握する鍵となります。

  • TLB (Translation Lookaside Buffer): アドレス変換情報を高速にキャッシュする機構。ページウォークを回避し、システムの高速化を図るための最前線です。
  • ページテーブル: 仮想ページと物理フレームの対応関係を記録したデータ構造。DRAM上に存在し、ページウォークの「地図」となります。
  • MMU (Memory Management Unit): アドレス変換処理全般(TLB参照、ページウォーク実行)を担うハードウェア。
  • 仮想メモリ: ページ
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この記事を書いた人

両親の影響を受け、幼少期からロボットやエンジニアリングに親しみ、国公立大学で電気系の修士号を取得。現在はITエンジニアとして、開発から設計まで幅広く活躍している。

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