リングカウンタ

リングカウンタ

リングカウンタ

英語表記: Ring Counter

概要

リングカウンタは、「論理回路とゲート」の知識を基礎として構築される「順序回路」の一種であり、特に「カウンタとタイマ」のカテゴリに属する特殊な機能を持つ回路です。複数のフリップフロップ(FF)を直列に接続し、最後のFFの出力を最初のFFの入力にフィードバック(帰還)させることで、全体が環状(リング状)になっているのが最大の特徴です。クロックパルスが入力されるたびに、保持している単一の「1」(ハイ状態)が順次隣のフリップフロップへと移動し、最終的に元の位置に戻るという巡回動作を繰り返します。

詳細解説

リングカウンタは、単に数を数えるというよりは、特定の順序で状態を生成し、制御信号をタイミングよく出力するために設計された、大変興味深い順序回路です。

目的と構成要素

リングカウンタの主な目的は、N個の distinct な(明確に区別できる)タイミングパルスや制御信号を、複雑なデコード回路を使わずに生成することにあります。

【論理回路とゲート → 順序回路の文脈】
リングカウンタは、フリップフロップという記憶素子を中核として構成されます。フリップフロップ自体が「論理回路とゲート」の組み合わせでできており、その記憶機能によって回路全体の出力が過去の状態に依存するようになるため、「順序回路」に分類されます。

主要な構成要素:

  1. フリップフロップ (FF): 通常はDフリップフロップ(D-FF)が使用されます。N個の状態を巡回させる場合、N個のフリップフロップが必要です。
  2. クロック入力 (CLK): すべてのフリップフロップに共通のクロック信号が供給され、このパルスに同期して状態がシフトします。
  3. フィードバックループ: 最後のフリップフロップの出力(Qn)が、最初のフリップフロップの入力(D1)に直接接続されています。これにより、状態がリング状に巡回します。
  4. 初期設定回路: 動作開始前に、必ず一つのフリップフロップだけを「1」にセットし、他を「0」にリセットする初期化が必要です。

動作原理

例えば、4段のリングカウンタを考えましょう。

| クロック (CLK) | Q1 | Q2 | Q3 | Q4 |
| :———— | :- | :- | :- | :- |
| 初期状態 | 1 | 0 | 0 | 0 |
| 1回目 | 0 | 1 | 0 | 0 |
| 2回目 | 0 | 0 | 1 | 0 |
| 3回目 | 0 | 0 | 0 | 1 |
| 4回目 | 1 | 0 | 0 | 0 |
| 5回目 | 0 | 1 | 0 | 0 |

クロックが1回入るごとに、「1」の状態が右隣へと移動していきます。4段目のQ4が「1」になった後、次のクロックではその「1」がフィードバックループを通じてQ1に戻り、巡回が完了します。この動作により、4回のクロックパルスで4つの明確な状態(Q1, Q2, Q3, Q4のいずれか一つだけがアクティブな状態)を順番に生成できます。

標準カウンタとの比較(カウンタとタイマの視点)

通常のNビットバイナリカウンタは、$2^N$個の状態(例えば、4ビットなら16状態)を持つことができますが、リングカウンタはN段のフリップフロップに対して、わずかN個の状態しか持ちません。これは一見非効率に見えますが、リングカウンタの最大の利点は、デコード回路が不要な点にあります。

バイナリカウンタで「特定の状態(例:1010)になったこと」を知るためには、すべての出力に対してANDゲートなどの論理回路を使ってデコードしなければなりません。しかし、リングカウンタでは、Q3の出力が「1」であれば、それがそのまま「3番目の状態である」という制御信号として利用できるのです。このシンプルさが、高速動作や回路の単純化に大きく貢献します。

具体例・活用シーン

リングカウンタは、その順序性とデコード不要の特性から、さまざまな制御システムで利用されています。

活用シーンの例

  • シーケンシャル制御: 自動販売機や洗濯機、信号機などのように、決められた順序でステップを踏んでいく制御システム(シーケンサ)の基本要素として利用されます。各フリップフロップの出力が、特定の工程(例:「給水」「洗浄」「排水」など)を開始・停止させるトリガーとなります。
  • パルス生成器: CPU内部や周辺機器で、複数のタイミングパルスを正確な順序で生成するために使われます。
  • キーボードスキャン: キーボードのどのキーが押されたかを順番にチェック(スキャン)する際、そのスキャンタイミングを生成するのに利用されることがあります。

アナロジー:聖火リレーの物語

リングカウンタの動作を理解するための最も分かりやすい例は、聖火リレーです。

  1. ランナー(フリップフロップ): リレーに参加するN人のランナー(Q1, Q2, Q3, … QN)が、順番に並んでいます。
  2. 聖火(アクティブな「1」): 聖火は一つしかありません。この聖火が「1」の状態です。
  3. スタート: 最初のランナー(Q1)が聖火を持った状態(1, 0, 0, 0…)からスタートします。
  4. クロックパルス(合図): 審判が「ドン!」と合図(クロックパルス)を出すたびに、ランナーは走るのではなく、隣のランナーに聖火を渡します
  5. 巡回: 最後のランナー(QN)が聖火を受け取った後、次の合図で、その聖火は驚くべきことに一番最初のランナー(Q1)にフィードバックされ、リレーが再開します。

この聖火が順番にランナーを巡っていく様子こそが、リングカウンタがクロックに同期して状態を巡回させる動作そのものなのです。特定のランナーが聖火を持っているときだけ、そのランナーに紐づいた制御機能(例:花火を打ち上げる)が動作すると考えれば、制御回路としての役割がよく分かります。

資格試験向けチェックポイント

ITパスポート試験、基本情報技術者試験、応用情報技術者試験において、リングカウンタは順序回路の応用問題として出題されることがあります。特に、その効率性や特性を他のカウンタと比較させる問題が頻出します。

  • N状態 vs $2^N$状態の理解: N段のリングカウンタは必ずN個の状態しか持たないことを覚えておきましょう。これはバイナリカウンタの $2^N$ 状態と比較して、資源効率は悪いものの、デコードが不要という大きな利点があることを理解しておくことが重要です。(例:4段FFで4状態)
  • 必須要素: 記憶素子(フリップフロップ)と、最後の出力が最初に戻る「フィードバックループ」が必須であることを確認してください。フィードバックがあるからこそ、これは「順序回路」として機能するのです。
  • ジョンソンカウンタとの区別: リングカウンタの変種として「ジョンソンカウンタ」(またはツイストリングカウンタ)があります。これは最後のフリップフロップの反転出力 ($\bar{Q}$) を最初の入力(D)に戻します。N段のジョンソンカウンタは $2N$ 個の状態を持つことができるため、試験ではこの二つの違いを問う問題が頻出します。
  • 用途: 巡回的なタイミング信号や順序制御信号を生成するための回路である、という用途を理解しておきましょう。

関連用語

リングカウンタを深く理解するためには、以下の順序回路や記憶素子に関する用語を合わせて学習することが推奨されます。

  • フリップフロップ (Flip-Flop): 順序回路の基本となる1ビットの記憶素子です。
  • シフトレジスタ (Shift Register): リングカウンタは、最後の出力をフィードバックしなければ、単なるデータを移動させるシフトレジスタとして機能します。
  • ジョンソンカウンタ (Johnson Counter / ツイストリングカウンタ): リングカウンタの効率を改善した発展形です。
  • 情報不足: 本記事の入力材料には、上記の用語以外に、論理回路の基本であるAND, OR, NOTなどの具体的なゲートや、クロック同期設計に関する詳細な情報が含まれていません。これらの基本概念は、リングカウンタが順序回路として動作する土台であるため、別途学習が必要です。
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この記事を書いた人

両親の影響を受け、幼少期からロボットやエンジニアリングに親しみ、国公立大学で電気系の修士号を取得。現在はITエンジニアとして、開発から設計まで幅広く活躍している。

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