SAS(サス)

SAS(サス)

SAS(サス)

英語表記: Serial Attached SCSI (シリアル・アタッチド・スカジー)

概要

SAS(サス)は、「コンピュータの構成要素」の中でも特に「補助記憶装置(ストレージ)」と本体を接続するための重要な「記憶媒体インターフェース」規格の一つです。これは、長年にわたり信頼性の高かったパラレルSCSI規格を、現代の高速データ通信に適したシリアル通信方式へと進化させたものです。非常に高いデータ転送速度、堅牢な信頼性、そして優れた拡張性を特徴としており、主にエンタープライズ(企業)環境の高性能サーバーやストレージシステムで利用されています。SASは、単なる速度向上だけでなく、システムの可用性(止まらないこと)を追求するために設計された、プロフェッショナルなインターフェース技術と言えます。

詳細解説

SASの背景と目的

SASは、従来のSCSI(Small Computer System Interface)が抱えていたパラレル通信特有の課題(信号の同期の難しさ、ケーブル長や接続台数の制約)を克服するために開発されました。パラレルSCSIは同時に複数のデータを送る方式でしたが、信号干渉が避けられず、高速化に限界があったのです。

そこでSASは、データを一本の経路で連続的に送る「シリアル通信」を採用しました。これは、補助記憶装置(ストレージ)の性能を最大限に引き出し、システムの全体的なデータ処理能力を向上させるために不可欠な進化だったと言えます。私たちが扱うデータ量が爆発的に増えている現代において、このインターフェースの選択は、システムの安定性と応答速度を決定づける非常に重要な判断となりますね。SASがこの「記憶媒体インターフェース」のカテゴリで重要視されるのは、単に速いだけでなく、既存のSCSIが持つ高度なコマンドセットや信頼性を継承している点にもあります。

動作原理と主要コンポーネント

SASの最も重要な特徴は、その高い信頼性と柔軟な接続性にあります。企業が求める高負荷かつ連続稼働に耐えうる仕組みが組み込まれています。

  1. 全二重通信 (Full Duplex): SASは、データの送信と受信を同時に行うことができる全二重通信を採用しています。これにより、サーバーがストレージにデータを書き込みながら、同時に別のデータを読み出すといった高効率な処理が可能となり、特にI/O(入出力)負荷が高い環境で真価を発揮します。この同時処理能力は、現代のマルチタスクなサーバー運用において欠かせない要素です。
  2. ポイント・ツー・ポイント接続: 各デバイス(HDDやSSD)はコントローラと一対一で接続されます。これにより、パラレルSCSIのようなバス競合(複数のデバイスが同時に通信しようとして渋滞が発生すること)を防ぎ、通信路の安定性を確保します。接続がシンプルになることで、トラブルシューティングも容易になるメリットがあります。
  3. エクスパンダ(Expander)の利用: SASシステムでは、「エクスパンダ」と呼ばれるデバイスが重要な役割を果たします。これは、一つのコントローラポートから多数のストレージデバイスへの接続を可能にするハブのようなものです。エクスパンダを利用することで、サーバーのコントローラ数を増やさずに、数百台規模のドライブを効率的に管理・接続できる拡張性が生まれます。これは、大規模なデータセンターを構築する上で欠かせない機能であり、補助記憶装置の容量を柔軟にスケールアウトできる基盤となります。

SATAとの互換性とエンタープライズの要件

SASが「記憶媒体インターフェース」として優れている点の一つに、SATA(Serial ATA)ドライブとの互換性があります。SASコントローラは、物理的にSATAドライブを接続し、制御することができます(ただし、SATAコントローラにSASドライブを接続することはできません)。

しかし、SASドライブ自体はSATAドライブとは異なり、高い信頼性を実現するための「デュアルポート」構成を持つことが一般的です。これは、ドライブに接続ポートが二つあり、万が一、片方の経路やコントローラに障害が発生しても、もう一方の経路を通じてデータアクセスを継続できるという冗長性を提供します。企業の基幹システムや金融システムなど、絶対に止まってはいけない環境(ミッションクリティカルなシステム)では、この冗長性は必須要件であり、SASが選ばれる最大の理由となっています。SATAはコスト効率を重視しますが、SASは信頼性と可用性を極限まで高めるための設計思想で作られているわけです。

具体例・活用シーン

SASは、その性能特性から、主に以下のようなシーンで活躍しています。これらの具体例を通じて、なぜこの「記憶媒体インターフェース」が重要なのかを感じていただけると嬉しいです。

  • 高性能データベースサーバー: 大量の問い合わせ(クエリ)やトランザクションを同時に処理するデータベースサーバーでは、ストレージへのアクセスがボトルネックになりがちです。SASは高速なI/O性能と低遅延を提供し、業務アプリケーションの応答速度を保証します。
  • 仮想化基盤のホストサーバー: 一台の物理サーバー上で多数の仮想マシン(VM)を稼働させる場合、ストレージへの負荷は非常に高くなります。SASは、多数の同時アクセス要求を効率的に処理し、すべてのVMに安定したパフォーマンスを提供します。
  • ストレージエリアネットワーク(SAN): 大規模なストレージシステムにおいて、複数のサーバーから共通のストレージプールにアクセスする場合、SASは内部的なドライブ接続インターフェースとして信頼性を支えています。

比喩による理解:データ配送の専用高速道路

SASがなぜ信頼性が高いのかを理解するために、物流の比喩を使ってみましょう。

一般的なSATAインターフェースを、比較的安価で多くの家庭(コンシューマー)が利用する「一般道」だと想像してください。信号機(バス競合)や交差点(ケーブル長や接続数の制約)があり、時々渋滞(パフォーマンスの低下)が発生します。SATAはコストパフォーマンスに優れますが、混雑には

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この記事を書いた人

両親の影響を受け、幼少期からロボットやエンジニアリングに親しみ、国公立大学で電気系の修士号を取得。現在はITエンジニアとして、開発から設計まで幅広く活躍している。

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