SAS(サス)

SAS(サス)

SAS(サス)

英語表記: SAS (Serial Attached SCSI)

概要

SASは、主にサーバーや大規模ストレージシステムで使用される、高速かつ高信頼性を特徴とするデータ伝送インターフェース規格です。これは、従来のパラレルSCSI(P-SCSI)が抱えていた、信号干渉による速度限界やケーブル長の制約を克服するために開発されました。SASの最大の特徴は、データを複数の線で同時に送る「パラレル」方式ではなく、一本の高速な通信路で連続的に送る「シリアル(直列)」通信方式を採用している点にあります。このシリアル化によって、バス構造におけるデータ伝送の安定性が飛躍的に向上し、エンタープライズ環境での利用に不可欠な高い信頼性と拡張性を実現しているのです。

詳細解説

SASを理解する上で重要なのは、この技術が「コンピュータの構成要素」における「バス構造」の進化、特に「シリアル vs パラレル」という文脈の中でどのように位置づけられるかという点です。

従来のパラレルSCSI(P-SCSI)は、文字通り、データバスを構成する複数の信号線を並行して利用していました。これは理論上は高速ですが、信号のタイミングを厳密に同期させる必要があり、速度が上がるほど信号同士が干渉し合う「クロストーク」という問題が深刻化しました。これは、バス構造のパラレル方式が持つ宿命的な課題でした。

これに対し、SASは物理層の通信方式を根本的に見直し、シリアル通信を採用しました。シリアル通信では、データはクロック信号と一体化され、一本のレーン(経路)を高速で流れます。この方式により、信号の干渉が劇的に減少し、P-SCSIでは考えられなかった高い転送速度(現在では22.5Gbps以上)と長いケーブル長を実現しています。これは、バス構造におけるシリアル化の恩恵を最大限に享受した結果と言えるでしょう。

動作原理と構成要素

SASは、物理的な接続はシリアルですが、その上位層では長年培われてきたSCSIプロトコル(コマンドセット)をそのまま継承しています。このため、システム側から見ると、信頼性の高いSCSIの制御体系を維持しつつ、物理的な速度だけを向上させることができました。

主要な構成要素としては以下のものがあります。

  1. HBA (Host Bus Adapter): サーバー側のマザーボードに接続され、SCSIコマンドをSAS信号に変換し、ストレージデバイスとの通信を司ります。
  2. SASエキスパンダ(Expander): 複数のSASデバイスを接続するための分配器のような役割を果たします。ポイントツーポイント接続が基本のSASにおいて、エキスパンダを使用することで、柔軟なスター型やツリー型のトポロジーを構築でき、数百台のデバイスを接続できる拡張性を実現しています。
  3. SASドライブ: SASインターフェースを持つHDDやSSDです。特にエンタープライズ向けのSASドライブは、信頼性を高めるために「デュアルポート」を備えていることが多く、これは二重の経路を通じてデータにアクセスできるため、経路の冗長性を確保します。

SASの柔軟性の高さを示すもう一つの特徴は、SATA(Serial ATA)ドライブとの互換性です。SASコントローラはSATAの物理層を認識し、SATAドライブを制御できるため、高速なSASドライブと、コスト効率の良いSATAドライブを一つのストレージエンクロージャ内で混在させることが可能です。これもシリアル接続の持つメリットを活かした設計と言えます。

具体例・活用シーン

SASが最も活躍するのは、データアクセスが頻繁で、かつ停止が許されないミッションクリティカルな環境です。

  • 金融取引システムや基幹データベース: 数秒の停止も許されないシステムでは、SASの持つ高い信頼性と冗長性(デュアルポート)が必須となります。高速なシリアル接続により、大量のトランザクションを迅速に処理できます。
  • 大規模なクラウドインフラストラクチャ: 膨大な数の仮想マシン(VM)が稼働するクラウド環境では、ストレージへのI/O負荷が非常に高くなります。SASエキスパンダを利用した拡張性の高いバス構造により、多数のユーザーの要求に同時に応えることができます。

高速シリアル通信の比喩:高速道路とリニアモーターカー

SASが従来のパラレル方式に比べて優れている点を、より具体的にイメージするために、交通システムに例えてみましょう。

従来のパラレルSCSIは、まるで多車線の高速道路のようなものです。一度に多くの車(データ)を流そうとしますが、車線数が多い分、車線変更(信号の同期)が難しく、速度を上げすぎると接触事故(データエラー)のリスクが高まります。特に、データが長距離を移動する場合、信号の到達タイミングのズレ(スキュー)が深刻な問題となります。

一方、SAS(シリアル通信)は、一本のレールを走る超高速リニアモーターカーに例えられます。車線は一本(シリアル)ですが、信号の乱れや干渉が極めて少なく、非常に高い速度でデータを途切れなく送り続けることができます。車線変更の必要がないため、安定して最高速度を維持でき、トータルでの輸送能力(データ転送能力)と信頼性が大幅に向上するのです。

このように、SASはバス構造におけるシリアル化の成功例として、エンタープライズストレージのスタンダードの地位を確立していると言えるでしょう。

資格試験向けチェックポイント

ITパスポート、基本情報技術者、応用情報技術者などの試験において、SASやその背景にあるシリアル/パラレル通信の概念は頻繁に出題されます。SASを学習する際は、必ず「コンピュータの構成要素におけるバス構造の進化」という文脈で理解してください。

| チェックポイント | 詳細と出題傾向 |
| :— | :— |
| 定義とシリアル化のメリット | SASは「Serial Attached SCSI」の略であり、従来のパラレルSCSIをシリアル化した技術である点を暗記しましょう。シリアル化のメリット(高速化、長距離化、信頼性向上、ケーブルの細線化)は、バス構造全般の知識として重要です。 |
| パラレル vs シリアル | なぜパラレル通信が高速化に限界を迎えたのか(クロストーク、スキュー、同期の難しさ)を理解し、シリアル通信がその問題をどのように解決したのか(一本の高速レーン化)を説明できるようにしてください。これは基本情報技術者試験で頻出のテーマです。 |
| SATAとの関係 | SASとSATAはどちらもシリアル接続ですが、SASはエンタープライズ向け(高信頼性、デュアルポート、高度なコマンドセット)、SATAはコンシューマー向けという棲み分けを理解しましょう。SASコントローラがSATAドライブを接続できる互換性がある点も知識として重要です。 |
| SCSIプロトコルの継承 | SASが物理層はシリアルでも、上位層でSCSIのコマンドセットを継承しているため、高い信頼性と互換性を維持している点を覚えておきましょう。SCSIの基本的な役割(ストレージ制御)と結びつけて出題されることがあります。 |
| 冗長性と拡張性 | サーバー向け技術として、デュアルポートによる冗長性や、エキスパンダによる高い拡張性(多数のデバイス接続)がSASの大きな利点であることを把握しておきましょう。応用情報技術者試験では、システムの高可用性(HA)の文脈で問われることがあります。 |

関連用語

入力材料として特定の関連用語リストは提供されていませんが、SASを理解するためには、バス構造およびストレージ技術における以下の用語が不可欠です。

  • SCSI(スカジー / Small Computer System Interface): SASの基となったインターフェース規格およびプロトコル。
  • SATA(Serial ATA): SASと同じくシリアル通信を採用していますが、主に一般消費者向けのPCで使用されるインターフェース。
  • HBA(Host Bus Adapter): ホスト(サーバー)とバス(ストレージ)を接続するためのアダプタ。
  • クロストーク(Crosstalk): パラレル通信において、隣接する信号線間で発生する信号の干渉。シリアル化がこれを軽減しました。
  • 情報不足: 上記以外に、ファイバーチャネル(FC)やNVMeなど、ストレージインターフェース全般との比較を行うための具体的な関連用語リストが不足しています。

(文字数:約3,200文字)

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この記事を書いた人

両親の影響を受け、幼少期からロボットやエンジニアリングに親しみ、国公立大学で電気系の修士号を取得。現在はITエンジニアとして、開発から設計まで幅広く活躍している。

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