スタック

スタック

スタック

英語表記: Stack

概要

スタックは、コンピュータの制御装置において、プログラムの実行順序(制御フロー)を正確に管理するために使用される、一時的なデータ格納領域です。特に、サブルーチンの呼び出しや割り込みが発生した際に、処理が完了した後に元の場所へ正しく戻るための「戻り先アドレス」を保存する、制御フロー管理の中核を担う重要な役割を果たしています。このデータ構造は、後から格納したデータが先に読み出される「LIFO(Last-In, First-Out)」という原則に基づいて動作するのが最大の特徴です。

詳細解説

スタックは、コンピュータの構成要素の中で、命令の解釈と実行の流れを司る制御装置が、複雑なプログラムの流れを破綻なく制御するために欠かせない仕組みです。スタックがなければ、現代のプログラムで当たり前に行われている、関数やサブルーチンの呼び出し、さらには再帰的な処理などは実現できません。まさに制御装置の賢さを支える土台と言えるでしょう。

制御フロー管理におけるスタックの目的

私たちが作成するプログラムは、メインの処理から一時的に別の処理(サブルーチン)へジャンプし、処理が終わったら正確に元の場所へ戻ってくる、という動作を繰り返します。この「ジャンプ」と「復帰」の動きを管理するのが「制御フロー管理」です。

制御装置にとって最も難しいのは、サブルーチンが入れ子構造になっている場合です。例えば、サブルーチンAがサブルーチンBを呼び出し、サブルーチンBがサブルーチンCを呼び出すといった状況です。このとき、制御装置はCが終わったらBに戻り、Bが終わったらAに戻り、Aが終わったらメイン処理に戻る、という厳密な順番を守らなければなりません。

スタックは、この「戻り先アドレス」を順番通りに、かつ確実に一時保管する場所として機能します。

LIFOの原則とスタックポインタの役割

スタックの動作原理は、その名の通り「積み重ねる」ことです。この積み重ね方には厳格なルールがあり、それがLIFO(Last-In, First-Out:後入れ先出し)です。

LIFOの原則に基づき、制御装置はスタックの操作を以下の二つの基本的な命令で行います。

  1. プッシュ(Push): データをスタックに積み上げる操作です。サブルーチンを呼び出す際には、制御装置は現在のプログラムカウンタ(PC)が保持している「戻り先アドレス」をプッシュします。
  2. ポップ(Pop): スタックの最上部にあるデータを取り出す操作です。サブルーチンの実行が完了した際には、制御装置はスタックから戻り先アドレスをポップし、PCに設定することで実行を元の場所に戻します。

このスタック領域を管理するために、制御装置は「スタックポインタ(Stack Pointer: SP)」と呼ばれる特別なレジスタを使用します。スタックポインタは、常にスタックの最上部、すなわち次にデータが格納される場所、または最後に格納されたデータが格納されている場所を指し示しています。プッシュ操作が行われるたびにスタックポインタは移動し(一般的にはメモリアドレスが減少する方向に動きます)、ポップ操作が行われるたびに逆方向に移動します。

このスタックポインタの厳密な管理こそが、制御装置が複雑な制御フローを迷わずに管理できる秘訣なのです。

割り込み処理における重要性

サブルーチン呼び出しだけでなく、スタックは「割り込み処理」においても極めて重要な役割を果たします。割り込みとは、プログラム実行中に外部デバイスや内部エラーなどが発生した際に、現在の処理を中断して緊急の処理(割り込みハンドラ)を実行することです。

制御装置は、割り込みが発生した直後、現在のプログラムの状態(特にプログラムカウンタの値や、レジスタの内容)を迅速にスタックに退避(プッシュ)します。これにより、緊急処理が終わった後、退避させた情報をスタックから元に戻す(ポップ)ことで、まるで何も起こらなかったかのように、中断された場所からメイン処理を再開できるのです。この機能がなければ、コンピュータは外部のイベントに柔軟に対応できず、安定した動作は望めません。

具体例・活用シーン

スタックの動作原理を理解することは、制御フロー管理という抽象的な概念を具体的に把握するために非常に役立ちます。ここでは、日常的なアナロジーと、実際のプログラミングにおける例を見てみましょう。

1. 受付番号札のアナロジー

スタックのLIFO原則を理解するための身近な例として、「受付番号札」を想像してみてください。ただし、ここでは番号札を順番に取っていくのではなく、番号札の束を積み重ねていくイメージです。

  • プッシュ(積み重ね): 病院の受付で、患者さんが来るたびに新しい番号札(戻り先アドレス)を束の一番上に積み重ねていきます。
  • ポップ(取り出し): 看護師さんが患者さんを呼ぶとき、必ず一番上にある番号札から取って呼び出します。つまり、一番最後に受付に来た人(最後にプッシュされたデータ)が最初に呼ばれる(最初にポップされる)ことになります。

プログラムの実行もこれと同じです。メイン処理

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この記事を書いた人

両親の影響を受け、幼少期からロボットやエンジニアリングに親しみ、国公立大学で電気系の修士号を取得。現在はITエンジニアとして、開発から設計まで幅広く活躍している。

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