Undo/Redo
英語表記: Undo/Redo
概要
Undo/Redo(アンドゥ・リドゥ)は、コンピュータアプリケーションにおいて、ユーザーが行った操作の履歴を管理し、直前の状態に戻す(Undo)機能と、元に戻した操作をやり直す(Redo)機能を提供する仕組みです。この機能は、ユーザーの操作ミスを柔軟に許容し、作業の効率と安全性を飛躍的に高めるために不可欠な要素となっています。特に、この操作履歴の管理には、データ構造の中でもスタック(Stack)が用いられており、そのLIFO(Last-In, First-Out:後入れ先出し)の特性を利用して、操作を順番通りに元に戻したり、やり直したりすることを可能にしている点が最大の特徴です。
詳細解説
スタック構造がUndo/Redoを支える理由
Undo/Redo機能が「データ構造(リスト, スタック, キュー, ツリー) → スタック → 実装と応用」の文脈で重要視されるのは、その動作原理がスタックのLIFO特性と完全に一致しているからです。
ユーザーがアプリケーションで操作を行うとき、最も元に戻したいのは「一番最近に行った操作」ですよね。例えば、文章を打っていて、誤って一文を削除してしまった場合、元に戻したいのはその「削除」という操作だけです。この「直前の操作から順に処理する」という要求を完璧に満たすのがスタック構造なのです。
動作の仕組みと構成要素
Undo/Redo機能を実現するためには、主に二つのスタックが利用されます。
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Undoスタック(履歴スタック):
- ユーザーが新しい操作を行うたびに、その操作内容(あるいは操作前の状態)がこのスタックに積み上げられます(Push)。
- このスタックに積まれた情報が、「元に戻せる操作のリスト」となります。
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Redoスタック(やり直しスタック):
- ユーザーがUndoを実行すると、Undoスタックから取り出された操作(Popされた操作)が、今度はRedoスタックに積み上げられます(Push)。
- Redoスタックは「やり直せる操作のリスト」を保持します。
操作の具体的な流れ
- 操作の実行: ユーザーが「A」という操作を実行します。AがUndoスタックにPushされます。
- Undoの実行: ユーザーがUndoを実行します。UndoスタックからAがPopされ、Aを打ち消す処理が実行されます。同時に、AがRedoスタックにPushされます。
- Redoの実行: ユーザーがRedoを実行します。RedoスタックからAがPopされ、Aが再実行されます。同時に、Aが再びUndoスタックにPushされます。
- 新しい操作の挿入: Undoを数回実行した後、ユーザーが新しい操作「B」を実行したとします。このとき、「B」はUndoスタックにPushされますが、Redoスタックに残っていた履歴(まだやり直していない未来の操作)はすべてクリアされます。これは、新しい操作が過去の履歴の上に積み上げられた時点で、それ以降の「未来」のやり直しは無効になる、という論理的な帰結です。このRedoスタックのクリア処理も、資格試験ではよく問われるポイントなので、しっかり押さえておきたいところです。
このように、Undo/Redoは、操作を「記録」し、必要に応じて「取り出し」、別のスタックに「移動」させるという、スタックの基本的な操作(PushとPop)を応用した、非常に洗練された仕組みで実現されているのです。
具体例・活用シーン
Undo/Redo機能は、私たちが日常的に使うほぼすべてのアプリケーションに組み込まれています。この機能がないと、どれほど作業効率が落ちるか、想像するだけでも恐ろしいですよね。
実際の活用シーン
- 文書作成ソフトウェア(Word, Google Docsなど): 文章の入力、削除、書式設定の変更など、あらゆる操作がスタックに記録されています。誤って文章を消してしまっても、Ctrl+Z(Undo)で瞬時に戻れるのは、このスタック管理のおかげです。
- 画像編集ソフトウェア(Photoshop, GIMPなど): ペイント、レイヤーの調整、フィルタの適用など、複雑な操作を何段階にもわたってUndo/Redoできる機能は、クリエイティブな作業において試行錯誤を可能にする生命線です。
- プログラミングIDE: コードの編集履歴を管理し、バグを修正するために直前の状態に戻る際にも、このスタックベースの履歴管理が使われています。
比喩による理解:料理の準備と皿の山
スタックがUndo/Redoにどう使われているかを理解するために、料理の準備を例に考えてみましょう。
あなたは料理(アプリケーションでの操作)をしています。
- 操作(料理)の実行:
- 最初に野菜を切りました(操作A)。→ Undoスタックに「A:野菜を切った」を積みます。
- 次に肉を炒めました(操作B)。→ Undoスタックに「B:肉を炒めた」を積みます。
- 最後に味付けをしました(操作C)。→ Undoスタックに「C:味付けをした」を積みます。
Undoスタックは、C, B, A の順で積み上がっています。
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Undoの実行(元に戻す):
- 「あれ、味付けが濃すぎた!」と感じました。あなたはUndoを実行します。
- Undoスタックから一番上にあるC(味付け)を取り出し(Pop)、味付け前の状態に戻します。
- 取り出したCをRedoスタックに積みます。RedoスタックにはCが入ります。
- さらに「肉の炒め加減も失敗した」と思い、もう一度Undo。UndoスタックからB(肉を炒めた)を取り出し、Redoスタックに積みます。Redoスタックは C, B の順になります。
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Redoの実行(やり直す):
- 「やっぱり、肉の炒め加減はあれで良かったかも」と思い直しました。Redoを実行します。
- Redoスタックから一番上にあるBを取り出し(Pop)、肉を炒める操作をやり直します。
- 取り出したBは再びUndoスタックに戻されます。
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新しい操作の挿入:
- 野菜を切った状態(AがUndoスタックに残っている状態)までUndoした後、「やっぱり今日はパスタにしよう」と全く新しい操作D(パスタを茹でる)を実行しました。
- この瞬間、Redoスタックに残っていたBやCという「元の計画」は全て無効となり、Redoスタックはクリアされます。新しい計画DがUndoスタックにPushされ、過去の操作Aの上に積み上がります。
このように、スタックは「一番上に積まれたもの(最後に実行されたもの)」だけを操作対象とするため、操作の履歴管理において、論理的に破綻のない完璧な仕組みを提供してくれるのです。
資格試験向けチェックポイント
IT資格試験、特に基本情報技術者試験や応用情報技術者試験では、データ構造の具体的な応用例としてUndo/Redo機能が頻出します。ここで扱うのは、単なる機能ではなく、その裏側にあるデータ構造の知識です。
- データ構造の選択: Undo/Redo機能の実現に最も適したデータ構造はスタックである、という点を必ず覚えてください。リストやキュー(FIFO)では、履歴を効率的かつ論理的に管理できません。
- 原理の理解: スタックがLIFO(後入れ先出し)の原則に基づいているため、直前の操作から順に元に戻すことができる、という因果関係を理解することが重要です。
- 二つのスタックの役割: Undoスタックが「元に戻すための履歴」を保持し、Redoスタックが「やり直すための履歴」を保持するという役割分担を明確に区別してください。
- Redoスタックのクリア条件: Undoを実行した後、ユーザーが新しい操作を行った場合、Redoスタックの内容は全て破棄される(クリアされる)というルールは、試験問題で正誤を問われる典型的なパターンです。新しい操作は、過去の履歴を上書きし、未来のやり直しを不可能にする、と覚えておきましょう。
- 操作名とスタック操作: UndoはUndoスタックからのPop(取り出し)とRedoスタックへのPush(積み込み)の組み合わせであり、Redoはその逆の操作であることを把握しておくと、実装の応用問題にも対応できます。
関連用語
- 情報不足: この文脈(データ構造(リスト, スタック, キュー, ツリー) → スタック → 実装と応用)において、Undo/Redoと直接的に関連付けられるべき用語としては、スタックの基本的な操作や特性を示す用語が考えられます。
- LIFO (Last-In, First-Out):スタックの動作原理そのものです。
- Push(プッシュ): スタックにデータを積み上げる操作。
- Pop(ポップ): スタックからデータを取り出す操作。
- キュー (Queue):スタックと対比されるデータ構造(FIFO:先入れ先出し)。Undo/Redoの文脈では使われませんが、データ構造の知識として重要です。
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